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やっぱり地理が好き ~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~

宮路秀作(地理講師&コラムニスト)

宮路秀作

やっぱり地理が好き #267:①一橋大学の入試問題から世界を見る⑧、②大地が決める通貨 第4回、③黒海が閉じたウクライナ、迂回路を縛る線路の幅と川の水位

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やっぱり地理が好き 

~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~

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第267号(2026年8月23日発行)、今回のラインアップです。

①世界各国の地理情報

~一橋大学の入試問題から世界を見る⑧~

②大地が決める通貨

~第4回「銀」 技術がなければ、ただの石~

③今週の気になるニュース

~黒海が閉じたウクライナ、迂回路を縛る線路の幅と川の水位~

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こんにちは。

地理講師&コラムニストの宮路秀作です。

日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。

今回で267回目のメルマガ配信となります。


先日、蛇口をひねって水を出しながら、ふと考えました。


美味い不味いの主観はあると思うけど、日本の水は安価で安全に飲める。しかしペットボトルでわざわざ水を買っている人の中で、「ガソリンの値段が高いよな!」と文句を垂れている人がいるのは何故だろうか? ペットボトルの水よりも、ガソリン価格の方が安いのに。


と皮肉にも似たことです。事実よりもお気持ちを優先させる人は、こういうことをしてしまっているのでしょう。


そして次に思ったことは、


「いま出ているこの水は、どこから来たのだろうか?」と。


調べてみると、私の住む地域の水道水は、利根川水系から来ています。ではその利根川の水はどこから来るのかというと、群馬県と新潟県の県境にある山々です。谷川岳のあたりに降った雪が、春に解けて川になり、いくつものダムを経て、数百キロメートル先の蛇口から出てきます。


つまり私は、毎朝、群馬の雪で顔を洗っているわけです。


考えてみると、これはずいぶん心もとない話です。私の家の蛇口の水が出るかどうかは、私の努力とも、この街の事情とも関係がありません。数百キロメートル離れた山に、去年の冬どれだけ雪が降ったか。それだけで決まります。


雪が少なければ、夏に取水制限がかかります。実際、1994年の渇水では、関東の広い範囲で断水や給水制限が行われました。あのとき、東京の水が足りなかった原因は、東京にはありませんでした。


私たちは、目の前にあるものだけを見て、それがどこから来たのかを考えません。蛇口の水も、コンセントの電気も、スーパーマーケットに並んでいるパンも、そこにあるのが当たり前だと思っています。


しかし、当たり前に見えるものほど、遠くの誰かや、遠くの何かに支えられています。しかも、その支えは、たいてい目に見えません。地図にも載っていません。たいていのことは、生産者と消費者が顔を合わせることはありません。


蛇口をひねる。水が出る。それだけの動作の裏側に、山の積雪と、川の流れと、ダムの水位と、何百キロメートルもの水道管があります。どれか1つが欠けても、水は出ません。


どれも、ふだんは誰も気にしません。気にしないまま、それに支えられています。


それでは、今週も知識をアップデートして参りましょう。

よろしくお願いします!


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①世界各国の地理情報

~一橋大学の入試問題から世界を見る⑧~


前号266号では、2025年度前期試験第2問のリード文と、問1、問2を取り上げました。歩くという行為が道路をつくり、都市の姿を変えてきたという話でした。


まずは前号のまとめを以下に記しますので、こちらを読んでから問3、問4の解説へと入りたいと思います。


2025年度前期試験第2問、リード文の出典はレベッカ・ソルニットの『ウォークス 歩くことの精神史』でした。歩行が小径をつくり、道路をつくり、交易の道をつくって、都市や公園の姿を変えたのだという文章です。


問1は、現代日本において歩行者にとって不便な道路が存在する理由を、都市の変遷と道路に隣接する敷地との関係から説明せよ、というものでした。


日本の市街地は、自動車が走り出すよりずっと前に骨格ができあがっています。城下町には遠見遮断の道路網があり、宿場町も同様で、門前町は参詣道を中心に集落が成立しました。これらの道は、人が歩き、馬が通り、荷車が引かれるためのものです。道路幅は、それで足りていました。


自動車が本格的に普及するのは1960年代後半以降、クーラー、カラーテレビとともに3Cと称された時代です。つまり日本の道は、自動車のためにつくられたのではなく、自動車が後から入ってきました。アメリカ合衆国では道を引いてから家を建てましたが、日本は逆で、家がある場所に車が入ってきたわけです。


では歩道をつくればよいのかというと、そこに2つめの壁があります。道路の両側が宅地に挟まれ、その宅地が細かく分かれて、それぞれに所有者がいるからです。建築基準法42条2項は、幅員4メートル未満の道でも、建て替えの際に道路の中心線から2メートル下がることを条件に道路とみなすと規定しました。セットバックです。裏を返せば、建て替えが起きないかぎり道は広がりません。1本の道が4メートルになるまでに、数十年から100年近くかかります。


問2は、1950年代のアメリカ合衆国で、ある人文地理学者が道路沿いに現れた商店群を、それまでとは違う、よそ者と運転者のための世界であると述べた箇所についてでした。


歩いて向かう街では、店は歩く人の視線の高さに看板を出し、間口を狭くして軒を連ねます。ところが車で通り過ぎる街では、看板は巨大になり、店は道から引っ込み、その手前に駐車場が置かれます。同じ商店街という言葉でも、姿がまるで違うわけです。そして客も変わりました。歩いて行ける範囲に住む人ではなく、遠くから車でやって来るよそ者が客になったのです。


今回は、同じ大問の問3と問4を見ていきます。舞台はアメリカ合衆国です。砂漠のただ中で膨らみ続けた街と、同じ国にありながらまるで姿の異なる2つの都市が登場します。


■砂漠の街は、どこから水を得ているのか?

まず問3です。

前回確認したとおり、この街はもともと鉄道駅の周囲に建設されました。列車を下りた客が、カジノやホテルの集まる中心街まで歩いて向かう。そういう街です。ところが1941年、カジノとホテルの複合施設がロサンゼルスへ向かうハイウェイ91号線沿いに出現し、今日のラスヴェガス・ストリップ(ラスヴェガス大通りにあるおよそ7キロメートルの通り)が生まれました。


つまり発展の背景には、交通の変化があります。鉄道の駅前という核から、自動車で来る客に向けた帯状の街へ。加えて、ネバダ州は1931年にカジノを合法化しています。周辺の州で禁じられていた娯楽を、この州だけが認め、そして観光客が来たわけです。


さて、ここで集落の成立条件を確認しておきます。


集落とは、村落と都市を合わせた呼び名です。どこに集落が成立するかを決めるのは、まず自然的要因でした。水利に恵まれること、自然災害が少ないこと、日当たりがよいこと。この最低条件を満たす場所に、人は住み着きます。


なかでも決定的なのが、水です。飲み水があり、田畑を潤す水がある。それがなければ、人はそこに住み続けられません。


その条件をクリアして集落が大きくなっていくと、こんどは社会的要因が前に出てきます。弥生時代の高地性集落や環濠集落が、その例です。稲作が広がって富の蓄積が生まれると、それを奪おうとする勢力が現れます。だから見晴らしのよい高台に住み、あるいは集落の周囲に濠をめぐらせました。水と日当たりだけでは足りず、安全が求められるようになったわけです。


人類の歴史は、こうした条件を技術で克服してきた歴史でもあります。井戸を掘り、堤防を築き、用水路を引く。そうやって、住める場所を広げてきました。


では、ラスヴェガスはどうでしょうか?

… … …(記事全文22,490文字)
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