… … …(記事全文8,416文字)【3行まとめ】
・2027年施行の育成就労制度は、専門技能を持たない外国人を入口で受け入れ、特定技能1号、さらに家族帯同と無期限更新が可能な2号へと続く道を敷いた。これは人手不足対策ではない。人口政策である。
・制度の立案過程では、武部勤・二階俊博両元幹事長らが率いる一般財団法人「NAGOMi」が法務大臣に直接提言し、家族帯同や永住許可の拡充まで要求していた。
・NAGOMiの会員対象は、外国人材紹介会社、監理団体、登録支援機関など、受け入れが増えるほど潤う事業者だ。国家の人口政策に、誰の利益が反映されたのか。
1.「人手不足だから」という論点のすり替え
日本は人手不足だから、外国人を入れるしかない。
この説明を、我々は何度聞かされてきたことか。建設、農業、介護、地方の中小企業。人が足りないのは事実だ。
だが、ここには重大なすり替えがある。
人手が足りないことと、専門技能のない外国人を大量に受け入れ、日本で育て、長期定住の道まで用意することは、まったく別の話だ。必要なのは労働力の一時的な補充なのか。それとも、日本の人口構成そのものを作り変えることなのか。
この二つを曖昧にしたまま、政府は2027年4月1日、「育成就労制度」を施行する。
そして制度の成立過程を洗うと、官僚主導の制度改革という説明では見えない、政治家・業界団体・外国人材ビジネスを結ぶネットワークが浮かび上がる。その中心にいるのが「NAGOMi」という団体だ。
2.育成就労は、実態として移民制度である
技能実習制度の建前は、途上国への技能移転だった。日本で学び、帰国して母国の発展に尽くす。だが実態は人手不足の穴埋めであり、失踪、劣悪な労働環境、転職制限と問題が噴出した。
そこで政府は技能実習を「発展的に解消」し、育成就労を創設した。国際貢献という建前を捨て、「人材の育成と確保」を正面から目的に据えたわけだ。
問題はその先にある。
育成就労は入国時に専門技能を求めない。日本語も、入国前に所定の講習を受ければ、初歩的な日本語能力試験に合格していなくても要件を満たせる。原則3年働いて試験に合格すれば特定技能1号へ。1号は通算原則5年。さらに上位の試験や実務経験を経て2号へ進めば、在留更新の上限がなくなり、配偶者と子供を呼び寄せられる。
育成就労(原則3年)→ 特定技能1号(通算原則5年)→ 特定技能2号(更新上限なし・家族帯同可)
2号は永住権そのものではない。だが要件を満たせば永住許可の申請に道が開ける。全員が2号に進むわけでもない。しかし、制度として道が敷かれたこと自体が重要なのだ。
政府がどう呼ぼうと関係ない。技能のない外国人を入口で受け入れ、長期定住に導く制度は、実態として移民政策である。
しかも、ここには論理の飛躍がある。2号の要件は職業技能だ。だが、食品加工工場で熟練した技能を持つことが、日本で家族を養い、子供を教育し、地域社会に溶け込む能力を保証するのか。するはずがない。職業技能の評価と定住適性の評価は別物である。労働市場の需要だけで国家の人口政策を決めてよいはずがない。
3.123万人の先にあるもの
2026年1月23日、政府は2028年度末までの受け入れ上限を閣議決定した。育成就労42万6200人、特定技能1号80万5700人。合計123万1900人である。
これは既存の在留者に123万人を上乗せするという意味ではない。制度が受け入れる上限だ。しかし、特定技能2号には上限がない。つまり、総量規制がない。何人が1号から2号へ進むのか。何人が家族を呼ぶのか。子供の教育、医療、住宅にどれだけの公的負担が生じるのか。人口構成はどう変わるのか。政府はその見通しを国民に示していない。
企業は労働力を得る。だが、その後の社会的費用を負担するのは企業ではない。自治体、学校、病院、そして地域住民だ。だからこそ、外国人労働者政策は経済政策ではなく、国家の将来像を決める人口政策なのである。
4.制度を設計したのは誰か――田中明彦氏とJICA
公式の経緯はこうだ。2022年11月、岸田政権が「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の設置を決定。座長はJICA理事長の田中明彦氏。あのホームタウン構想をJICAトップとして推進した当人だ。16回の会議を経て2023年11月30日に最終報告書、2024年3月に法案閣議決定、6月14日に成立した。
田中氏が外国人政策の有識者会議を率いたのは、これが初めてではない。
2021年、田中氏は政策研究大学院大学長として「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」の座長を務め、11月29日に法務大臣へ意見書を提出した。これを受けて政府は2022年6月、外国人を「これからの日本社会を共につくる一員」と位置づける「共生社会ロードマップ」を決定している。
さらに遡る。2022年3月、JICA緒方貞子平和開発研究所は、2040年に日本が必要とする外国人労働者を674万人、送り出し国の供給力を632万人と推計し、「42万人不足する」とする報告書を公表した。その取りまとめを担うハイレベル有識者会合に名を連ねていたのも田中氏である。経団連の外国人政策関係者や自治体首長も参加していた。
整理しよう。2021年に共生の理念、2022年に労働需要の推計、2022〜23年に受け入れ制度の設計。三つの領域すべてに、田中氏の名前がある。
674万人はあくまで経済シナリオに基づく需要推計であり、政府が受け入れを決めた数字ではない。だが問題は、「2040年に何人必要か」を先に弾き出し、その供給ルートと受け皿を設計するという発想そのものだ。この発想では、日本人の賃上げ、省力化、産業転換で外国人依存をどこまで減らせるかという選択肢は、脇へ追いやられる。需要推計を国家目標に読み替えてはならない。その前提こそ、政治が問い直すべきなのだ。
5.NAGOMiとは何者か
そして、この事実上の移民政策の設計と推進に深くかかわっているのが、NAGOMiという民間団体である。
NAGOMiは、一般財団法人外国人材共生支援全国協会の通称である。2020年10月8日設立。
会長は元自民党幹事長の武部勤氏。最高顧問に同じく元幹事長の二階俊博氏。副会長に元厚生労働大臣の塩崎恭久氏、元閣僚の宮腰光寛氏ら。地方組織の特別顧問には現職国会議員や複数の県知事が名を連ねる。
一見、外国人を支援する公益団体に見える。だが会員対象を見れば性格は明らかだ。外国人材の受け入れ企業、技能実習の監理団体、特定技能の登録支援機関、人材紹介・派遣機関、海外の送り出し機関。いずれも受け入れ制度に直接利害を持つ事業者である。
そしてNAGOMiは、政府への政策立案と要請活動を正式な事業目的に掲げている。
要するに、受け入れ拡大で事業機会が広がる事業者が集まり、大物政治家を看板に据え、制度設計に働きかける組織なのだ。
その団体が、制度の立案段階で法務大臣に直接乗り込んでいた。

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