… … …(記事全文4,586文字)フランスで開かれたエビアン・サミット。初の主要国首脳会議に臨んだ高市早苗首相は、記者会見で笑顔を見せ、米イラン覚書の合意を「事態の収束に向けた大きな一歩」と歓迎してみせた。日米同盟を礎とする日本外交の継続も、改めて強調した。同盟国としての結束を表舞台で演出するのは、外交上当然の所作ではある。
だが、ワシントンの内実を知る者にとって、あの笑顔が真に外交的計算に基づくものなのか、旧来の従米路線の反復に過ぎないのか、複雑な思い抜きに見ることはできなかった。
いま米国の統治能力は、目に見えて軋み始めている。その象徴が、今回の米イラン覚書だ。
「勝者はイラン」――覚書という名の敗北
まず事実を忌避せずに直視しよう。
二月二十八日、米国はイスラエルと共にイランを攻撃し、戦争に突入した(作戦名「エピック・フューリー」)。それから四か月。六月十六日、米イランは十四条からなる戦闘終結の覚書に署名し、六月二十一日からスイスで本格交渉が始まった(最終合意を目指す六十日間の交渉期間は、その起算点をめぐってなお米イランの主張が食い違っている)。
問題は、その覚書の中身である。
米国は海上封鎖を解除し、イランの自由な原油輸出を認めた。さらに地域パートナーと組み、少なくとも三千億ドル規模のイラン復興計画に取り組むと約束し、凍結資産の解除にも動く。一方で、イランの核武装を止める検証・履行の仕組みは、オバマ政権下のJCPOAにすら及ばない曖昧なものに留まった。
開戦時に米国が掲げた「ミサイル能力の削減」も「テロ支援の停止」も、達成されていない。それどころか、トランプ大統領自身が「ミサイルは問題ではない」と言い放つ始末だ。米メディアは「トランプはイランに手玉に取られた」と書き、米議会内からも「この戦争は割に合ったのか」という声が漏れている(PBS、MSNBC等)。
四か月の戦争と数千の死者を払って、イランの地域における立場をむしろ強くした。日本にも、強引にトランプを擁護する人たちがいる。私も長年トランプを支持して来た立場なので、極めて残念だが、これが「勝利」と呼べるものではないのは明らかである。
守護天使を自称する大統領
その上で、トランプの言動が事態をさらに混乱させている。
正式署名を前に、実務派のバンス副大統領、ウィトコフ特使、そしてクシュナーがスイスに乗り込み、恒久停戦と核問題の詳細を詰めようとしていた。ところが、その足元を背後から撃ち抜いたのは、他ならぬトランプ大統領本人だった。
トランプはFoxニュースの記者に対し、ホルムズ海峡を再封鎖しようとするイランへこう恫喝したと誇った。「海峡を閉じてみろ、お前たちの国は消えてなくなる。自分のクソみたいな国に生きて戻ることすらできなくなるぞ」。
さらにトランプは、米国こそが中東の「守護天使(Guardian Angel)」だと自称し、「必要なら海峡を奪う」「アメリカが通行料を取る」と公言した。ニューヨーク・タイムズの会見では、米国が中東の守護者となる見返りに、その「収益の20%」を取るとまで踏み込んでいる(ニューズウィーク、アルジャジーラ)。
イランの代表団は当然反発し、トランプの「言葉による脅し」に正式な抗議を表明して、一時は交渉の場を離れた(イラン国営メディアによる。米側は「退席ではない」と否定している)。もっとも交渉自体は、カタール・パキスタンの仲介で間もなく再開し、月曜には「六十日以内の最終合意を目指すロードマップ」で一致した。一度ぶち壊しては仲介国に後始末をさせる。これがトランプの流儀である。トランプは交渉について、「成功したら自分の手柄、失敗したらバンスの責任」と公言していたが、自らバンスを追い詰める行為となった。
撃たれたのは、味方のバンスだった
私はかねてより、バンス副大統領に一抹の不安を抱いていた。ニューヨーク・タイムズのスワン、ハーバーマン両記者の報道によれば、

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