… … …(記事全文6,979文字)2026年5月14〜15日、北京。2017年以来初となる米大統領の中国国賓訪問は、「幻想的な成果」(トランプ)と「建設的戦略的安定」(習近平)という二つの異なる言語で世界に発信された。しかし儀礼の霞を払えば、そこには冷徹な大国政治の現実が横たわっている。
本稿では五つの問いを検証する。①トランプは何を本当に売ったのか。②なぜ売らざるを得なかったのか。③台湾問題で何が変わったのか。④メディアの「警告」報道は誰の利益になったのか。⑤そして「建設的戦略的安定」とは何を意味するのか——これが最大の問いだ。
トランプは何を売ったのか——技術売却の実態
H200チップ:「エサ見せ」から「政策転換」へ
当初「エサ見せ外交」と見られていたNVIDIAのジェンセン・ファンCEOの急遽同行だが、実態は既に決定していた政策転換の執行局面だった。
2025年12月8日、トランプはTruth Socialへの投稿でNVIDIAのH200チップの対中輸出を許可すると発表した。売上の25%を米政府に収めることを条件に「承認済み顧客」への出荷を認めるという内容であり、バイデン政権がH20チップ(さらに格下のモデル)すら輸出禁止にした方針からの明確な転換だ。翌年1月13日には商務省規制として正式化された。
購入を承認された約10社はアリババ、テンセント、バイトダンス、JD.comを含む中国大手テクノロジー企業で、各社最大7万5千チップの購入が認められた。流通業者としてLenovoとFoxconnも承認された。
ここに逆説がある。ラトニック商務長官は「中国中央政府が自国の国内産業への投資を維持しようとしているため、これらの企業がいまだにチップを購入できていない」と述べた。米国は売ろうとしているが、北京が自国企業に買わせていないという膠着状態だ。これは北京の非対称戦略の典型だ——「米国に技術を売らせながら、自国産業保護のために実際には買わない」。H200を中国に売ることの安全保障上のリスクは意見が分かれているが、過小評価は禁物だろう。
【H200チップ:技術安全保障上の評価】
H200はNVIDIAの旧世代Hopperアーキテクチャに属する。最新H100/H200は軍事・
核融合・気象シミュレーション・タンパク質解析など軍民両用の最前線技術だ。
ITIFは「商業AIリサーチ用途では規制緩和が正当化される」と評価する一方、
民主党議員らは「中国のAI能力を直接向上させる」と強く反発している。
NVIDIAの中国市場依存度は売上の約13%。全世界AIデベロッパーの約半数が
中国在住であるという現実がビジネス論理の圧力となった。
技術安保の観点からは:短期的安全保障コストを甘受し長期的市場利益を
取るという選択であり、AIの軍民融合が進む中国においてリスクは過小評価
できない。
財界・金融アクセス:ウォール街の北京進出
ブラックロックのラリー・フィンク、シティグループのジェーン・フレイザー、ボーイングのケリー・オルトバーグ、さらにイーロン・マスク(テスラ)、ティム・クック(Apple)、スティーブン・シュワルツマン(ブラックストーン)ら十数名が北京入りした。
発表された「成果」は以下の通りだ。ボーイング200機購入(トランプの口頭発言のみ、署名文書なし)。大豆「数十億ドル分」の購入(同)。牛肉輸入ライセンス更新(その後再停止の報道あり)。AI統治の共同枠組み(署名文書なし)。
パターンが見える。トランプは大きな数字を口頭で宣言し、習近平は文書化せずに温存する。第一次トランプ政権の「フェーズ1合意」で中国が2500億ドルの購入約束を守らなかった構図の繰り返しになる可能性は否定できない。
なぜトランプは売らざるを得なかったのか——戦略的自己矛盾
ここが今回の会談の最も重要な構造的背景だ。
トランプ(米国)の本来の国家戦略は中国封じ込め(拒否戦略)だ。長期的には西半球に回帰し、自己完結するというビジョンがあるが、最大の脅威である中国の覇権主義は封じ込める必要がある。しかし当面の政治的サバイバルがそれを許さない。
トランプは2026年中間選挙でどうしても勝たなければならない。そのためには米経済を好転させなければならない。そのためには中国に飛行機から大豆から牛肉まで何でも買ってもらわなければならない。それ故に、本来ならディカップリングすべき相手に大規模なセールスを仕掛けなくてはならないという矛盾に陥る。
イランという戦略的自己矛盾
さらに決定的な問題がある。イランだ。

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