… … …(記事全文2,838文字)本年11月の米国大統領選挙で,共和党のトランプ氏が民主党のハリス氏を下し,勝利した.結果,来年1月に,現バイデン政権に代わりトランプ政権が樹立されることとなった.トランプ氏は二期目の大統領選挙ということで再任はないが,2025年から2029年にかけてトランプ氏が米大統領を務める見通しとなった.
今日の米国においては共和党を支持する人々と民主党を支持する人々との間には「Civil War」(内戦)と表現される程の対立があり,国民の分断は極めて深刻なものとなっている.そもそも民主党のバイデン政権の政策方針は基本的に所謂「理想主義」を基調としており,「自由と民主主義」(リベラルデモクラシー)が正義であり,この正義の価値は崇高なものであるため,その正義の実現のために相当なコストを支払うことも厭わないという傾きを持つ.
権威主義を排除し民主主義を敷衍するという「理想」,地球温暖化の阻止という「理想」,あらゆる人々の基本的人権は大切であるという「理想」,力による国境の改変は許されないという「理想」を掲げ,そのために,多少の反発や紛争の激化も厭わない.その結果,LGBT運動は加速し,移民受け入れを加速し,NATOはロシア領土にアプローチする形で含めて拡大し,ロシアと闘うウクライナへの徹底支援を拡大してきた.
一方でトランプはそうした「理想」よりも,「現実」を重視した政策運営を行う傾きが相対的に強い.ロシアと闘うウクライナの支援方針の大幅な見直しも打ち出と共に,ロシアや北朝鮮とも対話の準備を進めつつある.移民政策についても引き締めの姿勢を鮮明に打ち出している.
もちろんバイデン民主党といえど現実を完全に無視するわけでもなく,トランプ共和党といえど理想を完全に無視するわけでもない.
しかし両者の間には埋めがたい差違が存在するのは事実なのだ.それにも関わらず,現石破政権がその基本方針を引き継いだ前岸田政権は,彼が総理大臣の席についた時の大統領が「たまたま」民主党のバイデン大統領であったというだけの理由から――筆者にはそうとしか思えない――バイデン大統領の政策方針に完全に迎合する政治を内政外交ともに展開してしまった.
例えば,これまで積み重ねてきた日ロ独自外交の歴史を完全に無視してバイデン氏が望むロシア批判を加速し,バイデン氏が望むLGBT法案を国内の反発を無視する格好で成立させた等はその典型例だ.
さらには,自身の後継総理を決める総裁選挙においても,わざわざその投開票直前にホワイトハウスまで出向き,バイデン大統領の意向を確認し,その意向に忠実に従うべく,高市早苗氏「以外」の人物を日本の総理に仕立て上げるために,彼自身の「キングメーカーとしての政治的パワー」を全力で投入したとすらしばしば囁かれている.
そうして岸田氏はバイデン氏の意向をくむ形で石破政権を樹立させ,自らの方針の全てを引き継ぐように仕向けたわけだが,そんな石破氏の「はしご」を外すかのような格好でバイデン氏がホワイトハウスから退出しトランプ氏が米国大統領となることとなったのが今回の米大統領選挙であった.
繰り返すがトランプ氏は,Civil War(内戦)と言われる程に対立してきたバイデン・ハリス氏の方針を180度転換させることは必至だ.すなわち,バイデン氏が加速させてきたウクライナ戦争の終結を目指し,同じくバイデン氏が加速した地球温暖化対策や移民受け入れ政策を抑制し,自由貿易主義よりもむしろ関税を引き上げる保護主義の方針を拡大していくことが見通されている.
そんな状況下で,日本の総理は如何なる方針でトランプ大統領率いる米国と対峙していくべきなのか.言うまでも無く,
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)