… … …(記事全文3,316文字)私はかつて、「天才・松本人志」の大大大ファンでした。
「ごっつええ感じ」から「一人ごっつ」に至る松本さんの世界は、我が師匠西部邁氏の言論と並ぶ、腐敗しきったマスメディアの中でほぼ絶滅しかかっていた「真実」の手触りをはっきりと感じることができる、文字通りの「日曜日よりの使者」でした。そして学生の頃に読んだ松本人志の『遺書』は当時の私にとってキルケゴールの『死に至る病』や太宰治の『人間失格』と同じ、世間では全く触れられない真実が吐露された名著でした。
そんな松本さんについて、こういう「批評」を書く必然性を持つに至る日が30年後に訪れるなんて、当時の僕には思いもよりませんでした…。
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年末に、松本人志さんが、今から15年前に、後輩芸人達を使って、芸能人の卵を含む複数の女性に対して「性加害」を働いたという記事が週刊文春に掲載されました。
これまで口をつぐんでいた芸能人の卵だった女性からは、「芸能界の権力者でもある彼の怒りを買うと、どんな仕事上の報復を受けるかわからず、これまで口を閉ざしてきた子が数多く存在する」(引用)との証言が掲載されています。
これはつまり、昨今ジャニー喜多川事件や、ハリウッドの映画監督等が起こしたMe Too事件と同じく「社会的強者による性加害」の問題であることが疑われる事案だという報道です。
そんな状況の中、今回、「芸能人の卵」である「A子さん」がその性被害を告発することを決意したのは、ジャニーズ事件が明るみになったことがきっかけだったと言います。
「ジャニーズ問題では、2010年代半ばまで多くの方が性被害を受けていました。そして被害者が一斉に立ち上がり、大きな山が動いた。それを見て勇気をもらいました」(A子さん)
筆者はこの件について真実を認識している者ではありませんが、これまで報道されている内容に基づいて実施可能な、問題の「本質」は一体どこにあるのかについての批評・考察を本件に加えてみたいと思います。
まず、その記事の内容は詳しくは週刊文春の年末号やその電子版をご覧頂ければと思いますが、その要諦は次のようなものです(下記はあくまでも記事内容の要約です)。
・今から15年前、お笑い芸人のスピードワゴン小沢氏の知人であったA子さんが、VIPと「部屋のみ」するから来てくれと誘われ、都内高級ホテルの一室に言った。
・そこには、松本人志氏と小沢氏と放送作家Xの三名の男と、芸能人の卵であるA子さんの他に互いに初対面の女性2名がいた(要するにA子さんの知り合いは小沢氏だけ)。
・小沢氏はA子さんに「粗相があったら、この辺りを歩けなくなるかも」と、松本氏を拒否するなと言う趣旨ともとれる脅し的発言をしていた。
・そこで、各女性が15~20分おきに各男性と性的行為を個々の部屋で、女性の意志に反して行わせようとする「ゲーム」が行われた。
・A子さんは松本人志氏からのいわゆる性行為の強要を拒否したが、オーラルセックスを強いられた。ただしゲーム終了後に松本人志は小沢氏に「性行為ができなかった事」についてクレームを吐露していた…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)