□■□■ 【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ 天木直人のメールマガジン 2009年5月18日発行 第190号 □■ ────────────────────────────────── ■ 米国政権内部で反戦を唱える事の難しさ ニューズウィーク日本語版の5月20日号に、米国元高官によるイラク戦争 秘話が、また一つ述べられている。 それを読んで私は静かな興奮を覚えた。 これは超一流の外交資料であると同時に、あの独立外交官カーン・ロスが 提示した重要な問題でもある。 その告白者の名はリチャード・ハース米外交評議会会長。イラク開戦当時は 米国務省の政策企画部長という高官の地位にあった。 その彼が、02年7月にホワイトハウスでコンドリーザ・ライス大統領補佐官 と面会した時のことをこう振り返っている。 「イラク問題を外交の中心課題にすることを本気で望んでいるのかい?」 「リチャード、何もいわないで。大統領の心はもう決まっているのよ」 米国が、というよりもブッシュ大統領が、いつ、どのような理由でイラク攻撃 を決断したかについては、今となってはすでに様々な事が語られ、書かれている。 このリチャード・ハウスの告白が、またひとつそれを補強している。 実際にイラク攻撃が始まったのは2003年3月であったが、すでに 02年7月の時点で、もはやブッシュ大統領の心は決まっていたのだ。だから、 「何を言ってもムダよ」、ということになる。 リチャード・ハースはその告白のなかで、もうひとつの極めて重要な事を 明らかにしている。つまり自分はイラク攻撃に反対であったが、体を張って それに断固反対しなかった。その理由のひとつは、イラク攻撃に反対する自分の 気持ちが中途半端だった、つまり「開戦には60対40の割合で反対」である、 という程度のものであったという。 リチャード・ハースは書いている。もしあの時、「イラクに大量破壊兵器が 存在しないことや、戦争を遂行する(事を主張するネオコンの)人々の判断と 能力に重大な問題があることを知っていたら、断固反対を貫いていたはずだ」、 と。 この言葉を額面どおりに受け取れば、少なくとも国務省は大量破壊兵器の 存在を知らなかったのであり、ネオコンの本当の悪辣さ、本性を、知らなかった と言う事になる。 最後に、この点が、ハースの告白のハイライト部分であるが、ブッシュ政権 内部にいる限りは、反戦を主張する事は自らを大きなジレンマに置くことになり、 ほとんど不可能だった、とハースは次のように書いている。 「反対や異議の表明は、極めてアメリカ的な行為だろう。そもそもアメリカは、 イギリスへの異議申し立て(独立戦争)からうまれた国と言ってもいい・・・ だが個人的な経験から言わせてもらえれば、異議は一般論としては高く評価 されるが、政策決定の現場では必ずしも評価されない。確かに私たちは内なる 良心の声に従うべきだし、指導者には本人が聞きたいことではなく、真実を 告げるべきだ。とはいえ、それでは相手を怒らせたり、提案が拒絶されたり する事も少なくない・・・」 そして最後に反戦派のジレンマを次のように書いてその告白を終えている。 「異議を無視されたり却下されたりした時はどうするか。一つの選択肢は ・・・反対を続けることだ。もちろんこの場合は政策決定プロセスから排除 され、無視されるリスクはある・・・別の選択肢は情報をリークしたり、 政策の遂行を妨害する(卑劣な)手もあるが、私には(それは)考えられ なかった・・・政権を去る(辞表を叩きつける)という選択肢は・・・ もっとも劇的な異議表明の手段だ・・(それらを総合的に考えると)政権内の 異議表明に杓子定規な定義を当てはめることはできない。時には公然と反対する ほうがいい場合もあるが、対立を避けたほうが適切な場合もある。辞任すべき ケースもあれば、仕事を続けたほうがいい場合もある。つまりこれという正解 は存在しない。政権内の少数派が抱えるジレンマの原因はそこにある・・・」 ここらあたりまで読んでくると、いかにも言い訳じみたハースの説明であるが、 その率直さは評価したい。 リチャード・ハースは更に続ける。自分は、米国の戦争を本気で止めるような 強い反対をすることなく、戦争が始まっても、遠くから戦争反対を、あくまでも ある程度の範囲内(にとどまる形)で唱え続ける方法をとった、と。 その巧みな世渡りの結果、彼は米外交評議会会長という要職を得て今日に 至っている。 彼はそのような現実主義的、打算的な自分の事を、 「必死で頑張って手にした国務省高官のポストを手放す決断はできなかった」と 正直に認めた上で、更に次のように述べている。 「(成功した自分のやり方にも)危険な落とし穴がある。実際は戦争を後押し するのとほとんど変わらないのに、自己の立場を容易に正当化できてしまうことだ・・・」 良心のうずき。これこそが本当のジレンマであるに違いない。それを感じない 者が生き残っていくのである。 ───────── 天木直人のメールマガジン 2009年5月18日発行 第190号 発行者:天木直人 著者ブログ: http://www.amakiblog.com/

新しいコメントを追加