… … …(記事全文3,559文字)日本の食料安全保障を巡る議論は、長らく「食料自給率」という指標と、農家への手厚い補助金政策を中心に回ってきた。
しかし、こうした旧来の思想は、現代の複雑な地政学とグローバル・サプライチェーンの前で決定的な破綻を露呈している。
市場経済のダイナミズムを活かしつつ、いかにして非常時の国民の食料を守るのか。その解を探るには、経済学者フリードリヒ・ハイエクの洞察と、冷徹な安全保障上の現実を対比させる視点が欠かせない。
これは新しい農林水産大臣への処方箋である。ハイエクの思想において、政府が関税や価格統制で市場に介入するだけでなく、農家へ直接的な金銭的支援(補助金や交付金)を交付することも、一見すると善意の政策に見えて、実のところ農業そのものを衰退させる毒になるのだ。金銭的支援は一見すると農家の暮らしを守る恵みに思えるが、市場においては「本来なら淘汰されたり、経営転換を迫られたりすべき非効率な生産」を延命させる麻薬として機能してしまうからだ。
農業の現場には、その土地特有の土壌、毎年の細かな気候変化、地域ごとの消費者ニーズといった、中央官僚には到底把握しきれない分散された現場の知識が無数に存在する。
市場において絶えず変動する価格は、そうした膨大な情報を集約し、いま何をいくらで作るべきかを現場に示す最強のシグナルだ。
しかし、政府が金銭的支援によって農家の収入を下支えしてしまうと、この価格シグナルは切断される。どんなに需要に合わない作物を作っても、あるいはどんなに生産効率が悪くても公金で補填されるのであれば、農家がリスクを取って創意工夫を凝らしたり、技術革新に挑んだりする動機は失われてしまう。
価格のシグナルを失った市場では、生産の集約や効率化(ハイエクの言う「発見の手続きとしての競争」)が止まり、非効率な生産構造がそのまま固定化してしまう。
自律的な発展の芽を自ら摘み取り、税金投入なしでは存続できない脆弱な体質を作り出すことこそが、政府介入や金銭的支援がもたらす最終的な結末だ。
では、市場にすべてを委ねれば食料安全保障は万全かと言えば、話はそう単純ではない。
いよいよ核心へ!
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