Foomii(フーミー)

誰も説明しない世界と日本の現実

山岡鉄秀(情報戦略アナリスト)

山岡鉄秀

沖ノ鳥島を基地化せよ─中露は「アメリカの隙」を正確に突いてきた

私はかねてから警告してきた。アメリカが中東で消耗すれば、中国は必ず太平洋で動く、と。

その通りになった。


7月19日未明、中国海軍の駆逐艦が、日本の排他的経済水域(EEZ)内で実弾を撃った。場所は沖ノ鳥島の南西約180キロ。日本最南端の領土の、目と鼻の先である。


本稿では、まず何が起きたかを正確に確認する。次に「国際法上は合法」という言葉の罠を解く。そして、日本が38年間この島に注ぎ込んできたものを見た上で、取るべき道を示す。結論を先に言う。沖ノ鳥島を自衛隊の拠点として基地化してでも守れ、である。


深夜二時、日本最南端で起きたこと

事実関係を押さえよう。

7月19日午前2時ごろ、海上自衛隊は沖ノ鳥島南西約330キロの海域で、北東に進む4隻の艦隊を確認した。中国海軍のレンハイ級ミサイル駆逐艦、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦、フチ級補給艦。そしてロシア海軍のステレグシチー級フリゲート。中露の混成艦隊である。


この4隻は、16日に沖縄本島と宮古島の間を南下した艦艇と同一だった。もともと今月上旬に中国沖合で行われた中露合同軍事演習に参加し、終了後に「海上合同パトロール」と称して太平洋へ進出したものである。演習から、パトロールから、日本EEZ内での実弾射撃へ。段階を踏んだエスカレーションだ。


そして沖ノ鳥島南西約180キロ、日本のEEZ内で、ルーヤンIII級駆逐艦が機関銃による射撃訓練を実施した。海自の護衛艦「さみだれ」が監視を続けた。防衛省が中国艦艇による日本EEZ内での射撃を確認し、公表したのは今回が初めてである。


小泉進次郎防衛相は20日、訪問先の英ファンボローでの講演で「中国とロシアの海軍艦艇が日本のEEZ内で実戦演習を実施した」と明言し、中露が「軍事連携を強化している」と指摘した。


これに対し、日本政府は中国に申し入れを行ったと表明した。何を申し入れたのか?


木原稔官房長官は21日の会見で、二つのことを明らかにした。一つは、政府の申し入れが「周辺船舶の航行に危険を及ぼし得る」ことへの懸念表明だということ。もう一つは、射撃の直前に中国海軍から周辺船舶に対し、訓練の期間と場所について無線で連絡があったということである。


事前の航行警報ではない。直前の無線連絡である。それだけだ。


そして政府の申し入れは「国際法違反だ」という抗議ではない。それどころか防衛省自身が、ロイターの取材に対し「今回の射撃訓練自体は国際ルールに反するものではない」と説明している。


違法とは言えない。だから安全面の懸念しか言えない。これが日本政府の立ち位置である。

これは事なかれ主義ではないのか?


「合法」という言葉に騙されるな

国連海洋法条約(UNCLOS)の構造を見てほしい。

領海は沿岸から12海里。ここには沿岸国の完全な主権が及び、他国の無断の軍事演習は明確な違法行為となる。


一方、EEZは沿岸から200海里。沿岸国に認められるのは水産資源や鉱物資源に対する「主権的権利」であり、航行の自由や軍事演習を含む公海上の自由は原則として妨げられない──これが日米を含む主要国の通説である。


だから政府は「国際法違反ではない」と言う。法的にはその通りだ。

だが、話はそこで終わらない。


第一に、UNCLOS第56条・58条は、EEZ内で活動する国に対し、沿岸国の権利と安全、他の船舶の航行の安全への「適当な考慮(Due Regard)」を義務づけている。事前の警告なく実弾を撃ち、周辺の漁船や民間航路の安全を脅かす行為は、この義務への違反となり得る。


では、洋上での実弾射撃における「本来の手順」とは何か。具体的に見よう。


演習実施国は、危険区域の座標・実施日時・危険の種類を、実施前に所定の様式による文書で当局に通報する。この海域を含む北太平洋西部は、国際的な航行警報制度の第XI区域にあたり、区域調整国は日本、実務は海上保安庁が担う。通報を受けた当局は、それを航行警報という公文書として発出し、インマルサット等の衛星経由で全ての船舶に自動配信する。乗員が聞いていなくても、受信機が勝手に受け取る。座標と日時が事前に公示され、記録に残るから、船は航路計画の段階で危険区域を避けられる。提出と受領の記録が双方に残り、後から「通告した、しない」の争いも起きない。


そして中国自身、この制度の常用者である。台湾周辺や渤海・黄海で演習を行う際、中国の海事当局は座標と期間を明記した航行警報を事前に文書で公示するのが通例だ。


だが今回、中国がやったのは、記録にも残らない直前の無線連絡一本である。


深夜二時の太平洋で、直前の無線を受け取れる船がどれだけいるのか。届いた範囲を検証する術もない。「適当な考慮」を払ったと言うには、あまりに粗雑である。


ここに中国の狡猾さがある。彼らは通告を完全に省けば違法性を問われることを知っている。だから最低限のアリバイとして、直前の無線だけを流した。自国の演習では制度に則って警報を出す国が、日本のEEZでだけ手順を省いたのだ。これは無知の産物ではない。計算の産物である。


第二に、中国の二重基準である。中国は、米軍や自衛隊が中国のEEZ内で偵察活動を行えば「主権侵害だ」と猛反発し、妨害してくる。ところが日本のEEZでは「公海の自由だ」と嘯いて実弾を撃つ。自国に適用する法と、他国に適用する法が違う。これは法治ではない。力の行使である。


第三に、最も悪質な布石がある。中国は2004年の日中外交当局者協議以来、「沖ノ鳥島はただの岩であり、日本にEEZを設定する資格はない」と主張し続けてきた。そして今回、中国外務省の林剣副報道局長は射撃訓練を問われ、こう言い放った。「国連海洋法公約に従えば、『沖ノ鳥』は岩礁であり、島ではありません」。


つまり中国政府の公式見解では、あの海域はそもそも日本のEEZですらない。今回の射撃は、22年来の主張を「行動」で示し、外務省報道官の言葉で裏打ちしたものである。理屈と実力の二段構えだ。


38年間、日本はコンクリートとチタンで島を守ってきた

なぜ「岩か島か」がそこまで重大なのか。条文を見れば分かる。

… … …(記事全文4,862文字)
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