… … …(記事全文4,134文字)米国防情報局(DIA)がイスラエルを「最高脅威」に指定した。その報道を、ホワイトハウスは即座に「虚偽」と切り捨てた。
この矛盾こそ、イラン戦争の停戦をめぐる米イスラエルの熾烈な情報戦の正体である。
戦争は、始めるより終わらせる方が命懸けだ。日本人は、その現実を直視しなければならない。
同盟国を「最高脅威」に指定するという異常
二〇二六年六月、NBCニュースとニューヨーク・タイムズが、にわかには信じがたい内部文書の存在を報じた。
米国防総省傘下の国防情報局(DIA)が、イスラエルの防諜脅威度を最高位「critical」に引き上げた、というのである。
敵対国ではない。米国が「中東における最も近い同盟国」と呼び続けてきた、当のイスラエルだ。
しかも、その脅威度はいまや他のどの同盟国よりも高く、一部の敵対国すら上回る。報道によれば、標的とされたのは対イラン交渉を率いるウィトコフ特使、政策を統括するコルビー国防次官、その副官ディミノ。在イスラエルの米要員の携帯電話に、通信を傍受するソフトが仕込まれていたという。ある高官は、第二次トランプ政権下のイスラエルの対米諜報を「常軌を逸している」と評した。
これを単なるスパイ事件と読むなら、本質を見誤る。
問題は、なぜ「いま」なのか、である。
戦争目的の違いは、停戦時に露呈する
すべては、この戦争の出発点に仕込まれていた。
ネタニヤフの戦争目的は、最初からイランの体制崩壊にあった。ミサイルと核施設を叩くのは手段にすぎない。最終目標は、イスラム共和国そのものを倒し、親イスラエルの傀儡政権に置き換えることだ。
ところが、米国の作戦「Operation Epic Fury」が掲げた戦争目的は、そこまで踏み込んでいない。核計画の解体と弾道ミサイル網の無力化——あくまで限定的な目標である。
この戦争目的の食い違いは、攻撃している間は表面化しない。共通の敵を叩いている限り、両者は一枚岩に見える。
だが、矛を収める段になった瞬間、亀裂は一気に露呈する。
米国にとって「核を止めれば終わり」の戦争が、イスラエルにとっては「政権を倒すまで終われない」戦争なのだ。今ここで止めれば、イランの体制は生き延び、再武装し、再び牙を剥く。エルサレムの論理からすれば、停戦は敗北に等しい。
これは、最初から分かっていたことである。しかし、短期決戦で体制ごと吹き飛ばすという目論見が外れた以上、この矛盾が露呈するのは必然だった。
トランプを追い詰める「政治的リミット」
ケイン統合参謀本部議長は、開戦前からトランプに警告していた。ウクライナとイスラエルへの支援で、米軍の弾薬在庫はすでに枯渇しかけている、と。
その警告は的中した。CSISの分析によれば、開戦からわずか七週間で、米軍は精密攻撃ミサイルの四五%、THAAD迎撃弾の半分、パトリオット迎撃弾のほぼ五〇%を撃ち尽くした。短期決戦に失敗し、弾薬不足に陥った今、トランプは軍事的にも政治的にも、明確なリミットに直面している。
時計の針は、容赦なく進む。
このまま膠着状態で七月四日を迎えるわけにはいかない。今年の独立記念日は、建国250周年という特別な節目だ。中東の泥沼を抱えたまま記念式典に臨めば、トランプの掲げてきた「戦争を終わらせる大統領」という看板は、根こそぎ吹き飛ぶ。
足元では、議会が反旗を翻した。六月三日、下院は戦争権限決議を215対208で可決。共和党議員四名が民主党に同調し、イラン戦争の停止を要求したのである。トランプはこれを「四人の悪い共和党員」と罵ったが、身内の造反が止まらぬ事実は隠せない。
そしてエネルギー危機とインフレだ。ホルムズ海峡の混乱は原油価格を押し上げ、米国民の生活を直撃している。このまま物価高が続けば、十一月の中間選挙での惨敗は避けられない。
トランプに残された道は、もはや一つしかない。
何らかの形をつけて、この戦争を終わらせること。それだけだ。
だが、ここに最大の罠がある。
戦争を終わらせたい一心でイランに妥協し、その結果がオバマ政権の核合意よりも後退した内容になれば、トランプは生涯にわたって嘲笑され、軽蔑される。「史上最悪のディール」と。テヘランを屈服させられず、エルサレムも納得させられない—トランプの選択肢は、恐ろしく少ない。
ここまでが、表の構図である。
では、なぜDIAが「critical」を発したその日に、ホワイトハウスは「報道は虚偽だ」と否定したのか。なぜ国防総省と政権中枢は、正反対のことを言っているのか。
その矛盾の裏でこそ、トランプとネタニヤフの本当の死闘が行われている。

購読するとすべてのコメントが読み放題!
購読申込はこちら
購読中の方は、こちらからログイン