… … …(記事全文2,317文字)3月26日、ノルウェー科学文学アカデミーは柏原正樹、京都大学数理解析研究所特任教授に「アーベル賞」を授与すると発表した。
「アーベル賞」は「数学のノーベル賞」と言われるが、それはノーベル賞に数学部門がないからである。
ノルウェー政府はこの賞を、ノルウェー出身の数学者、ニールス・アーベルの生誕200年を記念し、2002年に創設した。
アーベルはガロアと同様、19世紀の天才数学者であり、20代で亡くなった点も似ている。
アーベル群、アーベル方程式、アーベル多様体など、アーベルの名を冠した数学用語も多い。
数学の賞というと、「フィールズ賞」が有名だが、こちらは1936年にカナダ人の数学者、ジョン・チャールズ・フィールズが提唱し始まったものだ。
4年に一度開催される国際数学者会議(ICM)にあわせて受賞者が発表され、しかも原則として40歳以下の2~4名。
片やアーベル賞は毎年受賞者が発表され、年齢制限はない。
ちなみに柏原氏は2018年に「チャーン賞」も受賞しているが、これもICMが2010年に中華民国出身の数学者、陳省身を記念して設立した賞で、やはり4年ごとに授与される。
柏原氏の今回の授賞理由だが、「代数解析学及び表現論、特にⅮ‐加群理論の発展と結晶基底の発見への根本的な貢献に対して」というもの。
ノルウェーアカデミーによれば柏原氏は「誰も想像しなかった方法で驚くべき定理を証明してきた。まさに真の数学的先見者だ」とのことだ。
D‐加群理論のDとは「differential」であり、「微分」または「微分の」の意味がある。
D‐加群理論は、微分方程式のあつまりの一般的性質を研究するものであると説明されている。
柏原氏の功績はまた、解析、代数、幾何という数学の三分野のすべてに関わっているという。
実は柏原氏の功績について私はこれ以上の説明をすることは到底不可能だ。
一応、京都大学理学部卒なので少しくらいはできて当然と思われるかもしれないが、手も足も出ない。
私は元々数学が大好きで、高校時代には学年初めに教科書を入手すると、勝手に勉強を始め、「青チャート」「赤チャート」と言った問題集の問題も解きつつ、あっという間に授業より半年先くらいまで到達していた。
とにかく数学の問題を解くことが楽しくて仕方なかったのである。
同じような趣味をクラスの5~6人が共有しており、互いに競い、疑問点もぶつけあっていた。
そうして京大理学部に進学し、数学の教科書を入手。
高校までと同様に独学を始めたのだが、そもそも文章の意味がわからない。
わかるように書いてないのである。
高校までの数学の教科書は実に懇切丁寧で、誰が読んでも理解できるよう、執筆陣が細心の注意を払いながら書いていることがありありとわかった。
しかし大学の数学の教科書はまったく違う。
別にわからないならわからないで結構。
わかる人だけがついてきなさい、とでも言いたげだ。
授業も同様だった。
そんなわけで私も含め、クラスの8~9割が最初の数学の試験で討ち死にした。
高校時代には数学が大の得意であり、数学の問題を解くことを何より楽しみにしていた連中が、である。
クラスの担任は数学の先生であり、憮然としながらこう言った。
「僕は君たちを買いかぶっていたようだ」
京大理学部の学生なら、てっきり数学が得意だと思っていたら、なんだこのざまは、と言ったところか。
「いやいや、待ってください、先生」と50年の時を経て私は言いたい。
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