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福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップス)

福島香織(ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家)

福島香織

中国の政治・経済から街角の流行まで”中国の今”を現地報道と現地ソースからピックアップして解説します。

タイトル
福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップス)
価格
880円/月(税込)
発行
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福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)

https://foomii.com/00146

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【 中国ニュース:一週間ふりかえりヘッドライン 】

●中国・長春のビル爆発で1人死亡:刑事事件で捜査

詳細は不明だが、繁華街・万達広場あたりでも20回の爆発がおきたもよう(1月25日)


●米軍艦2隻が台湾海峡通過に外交部報道官「すべて把握している」(1月25日)

米イージス駆逐艦マッキャンベルと補給艦ウォルターSディールが24日、台湾海峡を通過した問題で、外交部報道官・華春瑩は定例記者会見での記者からの質問に対し「全行程すべて把握している。すでに米国側の発言に注目している」と控えめな表現。米軍艦の台湾海峡通過は昨年10月以来3回目、2019年に入ってからは初めて。「台湾問題は中米関係において最も重要かつ敏感な問題。一つの中国原則および中米間の三つのコミュニケを厳守して慎重に妥当に台湾問題を取り扱い、中米関係と台湾海峡の平和と安定を損なわないように求める。それが我々の原則と立場である」と華春瑩。米軍の行動は、習近平の年初の恫喝を伴った台湾政策演説に対する米国の“返答”ととらえられている。台湾には恫喝発言を行う習近平政権だが、いざ米国がアクションをとってくると、あまり強く言えないのか。あるいは外交部官僚と習近平には、緊張感に差があるのかも。


●2月5日は春節。春節の大移動(春運)はじまる。(1月24日 環球時報、CNN)

1月21日から春節の大移動が開始していたが、春節10日前の週末からいよいよ本格化。現段階の予測では延移動人口は29.9億人。700万人が90カ国へ海外旅行にでる予定。今年の春節の特徴は逆行春節移動。普通は若者が老親の待つ故郷に里帰りして春節を迎えるのだが、近年地方の老親が都会の子供たちに会いに来るパターンが増えている。“智慧春運”(スマート春節)と呼ばれるスマホやネットを使った交通機関のチケット予約や発見、チェックインが進んだおかげで、かつてよりはよほど楽になった春節移動。だが、大混雑ぶりは当然予想されるので、この時期に中国旅行にいく人は注意だ。


●ゲノム編集ベビ―の存在を中国当局確認。当事者の科学者・賀建奎は正式解雇、立件へ(1月23日、新華社)

南方科技大学副教授の賀建奎チームがゲノム編集技術CRISPR-Cas9を使って、HIVに感染しない遺伝子をもつゲノム編集ベビーを誕生させた問題で、中国当局が調査の結果、事実と断定。「賀建奎が個人の名誉と利益のために、自分で資金を調達し、当局の監視と管理から逃げて、個人のチームで、国家が明確に禁止するヒト胚の遺伝子編集実験を実施した」とし、大学から正式に解雇され、この実験にかかわるすべての科学者に活動の停止を命令。賀建奎は法律法規に従って厳粛に処罰されるものとした。賀建奎は「国家千人計画」(海外の先端技術を中国に持ち帰らせるために高額報酬を払って在外研究者を呼び戻す戦略)で南方科技大学に招聘され、多額の予算を割いて個人研修室まで作ってもらったエース科学者。彼の実験に本当に国家が全く関与していなかったかは疑問がのこるが、中国当局は建前上、マッドサイエンティストの暴走という形で、この事件に幕をひくようだ。賀建奎は投資家らから55億元の実験資金を集め、遺伝子編集ビジネスを立ち上げようとしていた、という説もある。これが汚職と判断されれば、死刑判決もありうるかもしれない。一方で、ゲノム編集ベビーとして誕生した双子の女児、ルルとナナ、そして目下妊娠中の女性とその赤ん坊の将来がどうなるかはほとんど解説がない。


●中国2018年のGDP成長率は6.6%、28年ぶりの低水準(1月22日各紙)

1月21日に国家統計局が会見を開き、2018年の経済統計を発表。GDPは初めて90兆元を超え、前年比成長率は6.6%。一人当たり可処分所得は28228元。寧吉喆局長は成長目標(6.5%前後)を実現したと肯定的に説明したが、これは28年ぶりの低水準。しかも、人民大学国際貨幣研究所副局長の向松祚教授が「40年来なかった変局がおきる」という演説(12月16日)の中で、国務院直轄の調査チームによれば2018年の実質GDP成長率は1.67%、一部調査ではマイナス成長と言う報告もある、と暴露した後なので、まったく説得力のない会見となった。


●中国の人口は昨年末段階で13億9538万人。国家統計局(1月21日)

前年比530万人増。2018年の出生人数は1523万人で前年比200万人減。これは70年ぶり、つまり建国以来の低水準。一人っ子政策を2015年に廃止し2016、2017年には出生数増に転じたが、今年は減少。出産適齢女性の減少が最大の原因らしい。労働人口は2012年から減り続けており、この7年間で2600万人減少。就業人口が2018年から減少に転じ、いよいよ少子高齢社会化による経済停滞が進むとみられている。国家統計局とは別に中国社会科学院が今年1月に出した予測によれば、中国の人口は2029年14億4000万人でピークに達し、50年までに13億6000万人に減少するという。これは現在の出生率が改善したとしての予想で、今年のような体出生率が続けば、このピークは2年前倒しになり2027年から減少期に入る、という見方も。中国はまもなく日本なみの超高齢化社会に突入すると思われるが、年金システムや医療保険システム、高齢者の就業機会などが西側先進国なみに整備されておらず、中国の直面する問題は労働者不足による経済急減速の問題だけでなく、姥捨て山的な高齢者人権問題が深刻化するのではないだろうか。


中国財経ニュースから:
・人民銀行は2018年の発行債券を43.6兆元、前年比6.8%増と発表。(1月25日)


・上海総合指数は25日に2600を回復 24日に春節期間の休場予定を発表、例年、春節前後は株価が上がり「春節効果」とよばれる。年初2440.91から始まり、15営業日で2600台に回復したのは春節効果だと。春節後から全人代が始まるまでの間、中国の経済・金融政策が五月雨式に行われ、市場が動揺しやすいため、年初から春節までの間に投資家らに積極投資の心理が働くといわれている。

民生証券アナリストの徐玉寧は「春節前は春運と関連が深い交通機関関連、有金属、自動車、鉄鋼、通信、機械、春節後は軽工製造業、電子、アパレル、有金属がねらい目」

華泰証券は「有色金属、国防軍工、電子部品、計算機あたりを勧める」

ただし全体には中国経済は減速中であり、内外の環境からみて全体に比較的大きな不確定要素に直面している。国泰君安証券は「A株に関しては春節前まで春節効果がはリスクがコントロールできても春節後はわかりませんので、春節休暇の株の持越しはよろしくない」とアドバイスしている。


◆


【コラム:2019年 日中関係のゆくえは?】

※サンプル記事では、より内容を確認いただきやすくするため、コラムを2本掲載しています。
※通常発行号では、メインコラムを毎週ひとつ配信予定です。

2010年以降、氷河期と言われていた日中関係が安倍晋三首相訪中を機に2018年に本来の軌道に回復したといわれた。といっても2010年以前の「戦略的互恵関係あるいは戦略的ライバル関係」とはちょっと違う感じである。「新時代の日中関係」と名付けられた日中関係の行方が日本にとって明るいのか、暗いのか。中国の学者やジャーナリスト、アナリストたちの見方も参考にして分析してみたい。

*

人民大学国際関係学の黄大慧教授が安倍訪中直前に行った日中関係に関する講義には私も北京に居合わせたので参加したが、彼によれば今後の日中関係は習近平国家主席訪日、東京五輪、北京冬季五輪、日中国交正常化50周年というイベントに支えられる形で良好なムードが続くとみている。ただし、それでも2010年以前の日中関係とは違い、不確定要素が多いとも指摘していた。黄教授は日中国交正常化の1972年以来四つの段階に分類している。①1972年からの約10年を蜜月期、②その後の2010年までの20年間は摩擦もあったがそれによってお互いを磨き、協力しあえる切磋琢磨期、日本語でいえば戦略的互恵関係・戦略的ライバル関係だったが、③2010年に日中のGDP逆転と尖閣問題が漁船衝突事件によって先鋭化したことで完全に日中は対立・競争期に入った。2012年には尖閣諸島の国有化問題、中国全土に広がった反日暴動で国民レベルの反感はさらに深まり、安倍晋三政権の誕生と2013年暮れの靖国神社参拝によって2014年は改革開放以来最悪の日中関係といわれる一年となる。黄教授はこの関係悪化の背景には、GDPで逆転された中国に対する日本の焦りやコンプレックスも関係しているとみている。

その後、2016年ごろから、すこしずつ関係改善に向かいはじめ、④2018年に「新時代の日中関係」に入る。これは自民党内の事情(自民党内の親中派勢力が安倍三選に協力したことの見返りとして親中に舵をとらねばならない)、日本財界の要請、中国経済の急減速、米トランプ政権の登場による日中双方の戦略的事情が駆動力となっている。だが国民レベルの感情、特に日本国民の対中感情が改善しているわけではなく、過去の蜜月期や2010年以前の政冷経熱期ほどの確固とした日中関係の改善とは言えない、という。

この日中関係の脆弱性については、中華日本学会の高洪副会長も指摘している。「より戦略的コミュニケーションを深め、ウィンウィンのレベルを高め、人文交流を進め、相互に安全保障を積極的に担保する姿勢、国際協力の緊密化を進めることが日中関係改善基調を維持するために重要だが、同時に我々も日中関係の脆弱性と敏感性を慎重に把握し、警戒と注意を解いてはならない」という。


日中関係の脆弱性と敏感性という抽象的な言葉を、私なりに咀嚼すると、最大の要因は二つ、尖閣問題と歴史認識問題であろう。

黄大慧教授は年末の「環球時報」のインタビューで、「日本の防衛予算がたえず増加しており、すでに専守防衛の需要を越えており、これは非常に危険な信号である」と指摘している。日本の防衛力強化が中国を仮想敵国にしたものであり「中国を脅威とする対中戦略に根本的な変化はないことがわかる」というが、実際その通りである。

日本の防衛意識が急激に高まったのは言うまでもなく、2010年以降、中国の尖閣諸島周辺への領海侵犯および接続海域への侵入が頻繁に起きているからだ。2013年は尖閣諸島周辺で領海侵犯した中国公船はのべ188隻、日数でいえば54日間。2014年は88隻32日、2015年95隻35日、2016年121隻36日、2017年83隻22日。しかも中国がオバマ政権時代に南シナ海で行ってきた島嶼の実行支配のやり方や、2016年7月の中国の国連海洋法違反を確認するハーグの仲裁裁判所判決を完全無視する姿勢をみれば、現実に解放軍が海上民兵を動員して尖閣諸島を奪いにくるシナリオは十分にありえ、しかもいったん実行支配すれば国際社会がいかに批判しようとも、これは覆らないという現実を日本も知るようになった。

だが、領土という国家の最も核心的利益で対立しても、十分な外交的信頼を維持できる国同士というのはある。また中国と領土的対立を抱えている国は日本だけではない。中国とロシアとの間には根深い領土問題があったが、とりあえずは2004年に国境を画定した。

日本と中国が安定した外交関係を築けないもう一つの要因は歴史認識問題だ。「抗日戦争」によって「共産党軍が祖国を旧日本軍の侵略から守った」という歴史認識(事実はどうあれ)が共産党のレジティマシー、執政の正統性の根拠となるものだから、共産党一党独裁体制が存続する限り中国は根本的には「反日姿勢」を捨てられないのだ。過去に親日路線をとった胡耀邦は失脚し、対日重視路線をとった胡錦濤は解放軍および江沢民派、習近平らの圧力に苦労させられ最終的には反日路線に舵を切らざるを得なかった。中国共産党の官僚政治家にとって「親日・日本への歩み寄り」は鬼門と言われるゆえんである。

領土問題についてロシアとは話し合いも妥協もできたとしても、共産党のレジティマシーと「反日・抗日」が関わっている以上、日本には妥協できない。この中国側の政治事情、世論事情をどう克服するかが、日中関係の改善においては最大の鍵だろうと思われる。過去、中国は経済的に困窮したとき、あるいは国際社会で孤立したとき日本に対して支援を求め、日本側も支援を続けてきたが、ある程度豊かになり、国際社会での地位が向上してくると、とたんに「反日」が頭をもたげてくる。それは社会が豊かになり国際社会と接触するようになると、人間のさがとして、個人の権利要求意識が高まり国際社会の普遍的価値観に染まるからだ。当然それは、人民の権利要求を制限し、選挙をへずに長期独裁政権を維持する共産党への疑問や批判につながってくる。この人民の批判や疑問の矛先が共産党に向かわないようにするには、歴史上の敵である日本への「反日・抗日」を持ち出すことが必要であり、旧日本軍から祖国をまもった「共産党」として、独裁的執政の正統性を主張する以外ないのだ。

だから、まさに改善方向に向かっている日中関係も、共産党執政の足元が揺らぐと「反日」政策に転じる可能性は常にある。いかに日本が中国に好意的に親密に協力姿勢を示しても、中国国内の政治・社会情勢でいつでも「反日」が持ち出されることを、日本は今までの経験で身をもって知っている。

そう考えると2019年は日中関係が暗転しうる不確定要素、つまり共産党体制が揺らぐ要因が満載だ。普通に考えられるのは①米中貿易戦争で追い込まれた中国経済のクラッシュ、それに伴う社会不安の爆発。②党内での不協和音、習近平政権の執政(外交、経済、個人崇拝、個人独裁の趨勢)に反対・批判する政治勢力の台頭、その結果の習近平失脚や暗殺などの政変、③一帯一路による関係国の負債増加や植民地化、華為技術の知財権窃取やスパイ行為の暴露などによる国際社会における中国の孤立化。こういった要因で中国社会が不安定化すると、中国は人民の不満や批判の矛先を外部に向けようとする。中国にとって一番の圧力源は米国だが、中国には米国と直接対決できるだけのパワーはない。とすると、その代理として矛先が向かうのは、台湾か日本、ということになる。台湾統一という中国建国以来の念願を成就するか、“永遠の敵”日本から釣魚島(尖閣)を奪い返すかして、共産党独裁の正統性と力強さを、中国人民に再認識させるしかない。


そこで2019年、日本が対中政策をどのように舵取りするかが気になってくる。安倍首相は習近平氏と首脳会談した際に「競争から協調へ」「脅威でなくパートナー」「自由で公正な貿易体制の発展」という「新三原則」を提案し、習近平もこれに同意したとされる。もっとも日本外務省筋の話しでは「新三原則」という表現は出されておらず、どうも外務省サイドと官邸サイドに対中外交における認識に齟齬があるようにも見える。


日本が2017年暮れごろから急速に中国融和政策に舵を切ったように見える背景に、日本側にどのような計算や腹積もりがあるかは、今のところ明確に言える人は少ないだろう。中国側の分析では安倍首相個人の政治的野心、たとえば北朝鮮拉致被害者の奪還や憲法改正といった目的を達成するために中国側の協力を引き出したいのではないか、あるいは総裁選三選に協力した自民党内財界の親中派勢力の要求をのんだのではないか、といった見方がでている。黄教授は、安倍個人の野心である憲法改正について「もしこれが実現できれば、日本の戦後の終焉を意味する」「中国政府の立場としては反対を表明せざるをえないが、受け入れることができないわけではない」という見方を、私の質問に対して回答しており、中国体制内には日本の憲法改正(9条改正)容認論が出ていることをうかがわせている。これは中国の対米対日工作の基本である日米離反の手法に若干の変化がでてきたこととも関係あろう。習近平政権の前期では、日本の軍国主義化を喧伝し米国の対日警戒感をあおると同時に、米中が第二大戦で日本と共闘した戦勝国チームであること強調する親米反日路線が日米離反工作の主な方針であったが、トランプ政権になって日米同盟がより強固になり、米国の対日警戒よりも対中警戒がはるかに勝るようになった後は、日本に米国からの“真の独立”を促す方向の戦略に切り替えてきている。なので昨今はプラザ合意前後からの米国の対日貿易摩擦時代と今の中国の苦境が似ていることなどを挙げて、日中がともに米国の横暴に振り回されてきた歴史をむしろ強調しはじめている。

こうした中国の思惑に、日本が本気で乗ろうとしているのか。あるいは別の思惑、例えば米国の対中強硬策と日本の対中懐柔策で鞭と飴の役割に別れて、実のところは共闘で中国市場の自由化や体制変革を誘導しようと動いているのか。あるいは、米中新冷戦の勝者に中国がなりうる可能性を考慮して、中国に対してもいい顔をしておくべきだと判断したのか。いずれにしても、今年のG20開催に合わせた習近平訪日のときの成果を見なくては、日中の今後は見えてこない。

2018年10月の安倍訪中時のお土産はかなり豪華であった。①第三国市場協力(事実上の一帯一路戦略推進協力)②通貨スワップ再開③日中ETF相互上場にむけての証券市場協力④みずほグループとCITIC、中国輸出信用保険公司との大型金融協力、事実上の中国輸出信用保険公司の信用をみずほが担保する、といったほか、一帯一路関連プロジェクトについて52項目180億ドル相当の調印を交わした。これに対して日本が得た見返りは福島原発事故をきっかけに続いていた十都県の農産物食品の禁輸解除や海空連絡メカニズムのホットライン早期設置、あるいは北朝鮮の拉致問題にたいする習近平の「理解と支持」発言といったもので、ほとんど外交的見返りはなかったといっていい。たしかに尖閣諸島周辺の中国海警船による領海侵犯は12月、2010年以降、初めてゼロを記録するなど、中国が尖閣問題に関して日本に配慮し始めたとはいえるが、依然接続水域には頻繁に侵入しており、「日本の出方次第で領海侵犯する意思がある」という脅しにも見えよう。尖閣周辺の観測ブイを撤去したという話も未だきいていない。

こうした日本が本当に欲する外交的見返りを習近平訪日のときに引き出せるかどうか。それがおそらくその時発表されるであろう第五の日中関係を規定する「政治文書」(日中共同宣言?)の中身にも繁栄されるだろう。ちなみに習近平はこの第五の政治文書に自信のスローガンである「人類運命共同体の構築」を盛り込みたいらしい。2019年、日本は日中関係の脆弱性と敏感性を踏まえたうえで、米中対立によって引き起こされている中国の窮地や中国発リスクをうまく利用しつ、その思惑を受け流しながら、日本の安全保障や真の国益に利する日中関係の方向性を模索する一層のテクニカルな外交力が求められる一年になりそうだ。


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【ウイグルの受難 今世紀最大の民族迫害事件に発展】

中国の新疆ウイグル自治区で目下進行中の「脱過激派条例」に基づくウイグル人迫害は、今世紀最悪の民族浄化事件といっていい。新疆地域で続々と造られている「強制収容所」(中国側によれば再教育センター)に不当に収容されているウイグル人は100万人とも200万人ともいわれる。米国がウイグル人権問題を対中外交に持ち出しはじめたこともあり、欧米メディアを中心にウイグル弾圧の実態が積極的に報じられ始めている。強制収容所から奇跡的に生還したウイグル人・オムルベク・アリさんが10月に来日し、虐待・拷問体験について講演したことは、日本メディアも比較的大きく報じた。だが、多少の報道はあっても、日本社会の関心はどうも薄い。日本にウイグル人・ウイグル留学生は2000人前後おり、彼らのほとんどが家族の誰かが強制収容所に入れられ、中国政府から脅迫や圧力を受け、おびえていることはご存じだろうか。遠い国のできごとではない、身近で発生しているウイグル人迫害の苦悩についてリポートする。

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在日ウイグル人の苦しみを知ってほしい。秋口に東京の会社員で、元中国籍ウイグル人、ウマルさん(仮名)が、ウェブメディアに掲載されたウイグル問題に関する私の寄稿を読んでコンタクトをとってきた。日本に留学後、そのまま就職して10年以上、同郷の妻と子供ともどもすでに日本国籍を取得している。「中国で起きているウイグル弾圧のことなど完全に忘れて、日本人として生きていく選択もできました。でも、故郷の父親が強制収容所に入れられて、自分たちだけ安全に生活していくわけにはいかないのだと思い知らされた」といい今、ウイグル迫害の実態をメディア関係者らに訴える活動を続けている。

ウマルさんは70歳を超える父親を含め、親族10人以上が「強制収容所」に収容されている。父親が収容されたのは2017年夏。一年後、突然、新疆ウイグル自治区当局から、収容中の父親のビデオメッセージが送られてきた。ビデオの中で父親は「私は元気にしています。中国政府は素晴らしい。息子よ、中国政府に協力してください」と訴えた。「ムスリムの誇りである髭を剃られ、げっそりと痩せたうつろな目をして、まるで原稿を読まされているような調子でそういうのです。ビデオの後ろには監視カメラが映っていました」。日本に長く暮らし、在日ウイグル人のネットワークも広いウマルさんに、同胞の言動や人間関係についての情報を提供せよ、つまり“スパイになれ”という要請を、卑怯にも収容中の父親に言わせたのだった。ウマルさんは在日ウイグルの同胞を守る選択をとった。「それ以降、故郷からのチャットメールやメッセージを一切取らないことにした。父はこれで殺されるかもしれないし、もう殺されているかもしれないが、自分や家族を守るためにウイグルの仲間を売ることはできない。父親ならわかってくれると思った」と苦渋の決断を語る。

弾圧や迫害など無縁と思われている平和国家日本で、日本国籍までとって普通に社会生活を送っている隣人が、その民族がウイグルであるというだけで、父親の命を盾にとられて同胞を裏切れと迫られて、苦しんでいることなど想像すらできない人が多いだろう。

10月、アムネスティ・インターナショナルの招聘で来日したオムルベク・アリさんは、カザフに移住してカザフ国籍を取得したあとの2017年3月、実家に立ち寄ったさいに強制収容所に入れられた。カザフ政府の働きかけで釈放されるまでの8カ月間、殴る蹴る、吊るされる、汚水につけられるといった壮絶な拷問を受けた。彼は、この収容経験を実名で公表したことで、別に収容されている父親が死亡。中国当局の報復による虐待死が疑われている。今は、家族を失いながらも、多くの無辜のウイグル人が受けている迫害のすさまじさを世界に認知させなければならないという使命感で動いている。


ここで、ウイグル迫害の歴史を簡単にさらっておきたい。かつて東トルキスタンと呼ばれる国があった新疆地域は中国人民共和国建国後、解放軍の侵攻によって併合、“新疆ウイグル自治区”が設置された。その複雑ないきさつは省くが以降、この地の多数派を占めたウイグル人及らムスリム民族に対して、中国当局は一貫して管理、迫害を続けてきた。その迫害が激化したのは2001年の米同時多発テロ以降。米国のいう“テロとの戦い”をウイグルの弾圧の口実として国際社会にはばかることなく行った結果、新疆地域のウイグルと漢族の対立が激化、2009年7月5日にウルムチ市で少なくとも死傷者2000人ともいわれる大騒乱事件が起きた。この事件の真相はいまだ正式な第三者調査もなく不明な部分も多い。当時の胡錦濤政権はウイグル人のさらなる怒りを警戒し、いったん弾圧政策を緩め融和政策を打ち出したこともあった。だが習近平政権になってこの方針は転換、以前に増した厳しいウイグル弾圧政策が開始された。理由はおそらく、習近平政権が国家戦略としてかかげる「一帯一路戦略(シルクロード構想)」の起点が新疆ウイグル自治区であり、この戦略を着実に進めるために新疆地域の“テロリスト”を徹底排除し、社会の安定化を図ろうということだろう。

特に2016年8月、習近平の子飼いの部下であった陳全国が新疆ウイグル自治区の書記に任命されて以降のウイグル弾圧は、ナチスドイツのユダヤ迫害に匹敵する苛酷さだ。

陳全国は2017年4月1日から「脱過激化条例」を施行。これは「原理主義の影響を受け激しく偏向した宗教思想観念によって正常な生産、生活、言動が妨害・排斥されることを防止する」ことが目的という。条例によれば、女性がベールをかぶったり男性が髭を蓄えたりすることも、ハラル食品を食べることも、ムスリムの伝統的な概念で執り行われる結婚式や葬式も、宗教をテーマにした社会調査や研究、論文執筆も、“過激宗教に染まる”ことであり、条例違反となる。この条例施行とともに進められたのが、ウイグル人へのスマートフォンなどの端末やAI付き監視カメラを駆使した徹底した監視管理追跡システムだ。

12歳から65歳のウイグル人に対してDNAや虹彩などの生体情報を含むあらゆる個人情報を強制的に提出させた上、所有する携帯に監視アプリのダウンロードを義務付けられて、GPSや町中に設置されているAI付き監視カメラと個人情報をリンクさせて、個人の行動や言論、人間関係を監視するシステムであり、まさしく現代のパノプティコン(万視塔)を実現している。

1100万人のウイグル人を管理・監視するために新疆全域に少なくとも7800以上の安全検査ステーションが設置され、私服警官が街角のいたるところに立った。監視役の警官不足から3万人の警官が新たに募集され、警官だけでなく民間の警察協力者も2016~17年の1年間だけで9万人採用されている。

こうした厳しい監視下にあって、いつもと違う道筋で通勤するだけで、当局から尋問される、という証言もある。そして些細ないいがかりをつけて、国連人種差別撤廃委員会でも取り上げられた「強制収容所」に放り込まれるのである。


強制収容所は、新疆ウイグル自治区当局その傘下の行政府・党委員会が運営しており、正式名称は再教育転化センターという。建前は、過激宗教に洗脳された哀れなウイグル人を再教育し、正しい方向に導き、社会復帰を支援する、というが、実態は監獄であり、思想改造所である。

米国資本の短波放送・ラジオ・フリーアジア(RFA)ウイグル語スタッフは直接新疆ウイグル当局者に電話をかけて、かなり正確な情報を収集しているが、それによれば、信仰の深さや日頃の言動、思想の傾向などまったく関係なく、ウイグル人であるという理由だけである日突然、強制収容所に入れられるケースが圧倒的に多いという。その背景には陳全国が自治区内の全行政単位、公務員たちに対し、脱過激化政策に対するノルマを課しており、そのノルマ達成のために手当たり次第、ウイグル人を強制収容所に放り込むからだ。たとえばカシュガル近郊のある村では、村民の40%に対しての再教育ノルマが課されている。地元警察当局者は「まだノルマを5%しか達成していない」と焦っていたという。ウイグルの成人男性はもちろんのこと、ノルマ達成のためには女性も10代の未成年も持病をもつ高齢者も容赦なく、ある日突然呼び出されて収容される。当然逮捕状もなければ、収容理由を告げられることもなく、家族にすら、どこに収容されたかも知らされないこともある。収容期限も決められていない。

収容されたのち、高齢者らに対しては、中国古代史や古典の難解な課題を与えられたり、毛沢東思想や習近平の新時代思想のスローガンや演説を暗唱させられたりするという。そして、出所許可を得るためには、そうした課題の試験で合格点を取らねばならないのだが、ウイグル語で生活してきた高齢のウイグル人にとって、こうした試験を中国語で正しく回答して合格点を出すことはほぼ不可能。つまり生涯出所できない可能性もあるのだ。

オムルさんのように、屈強で意思の強いウイグル人には、暴力的な容赦ない拷問が与えられる。信仰上食べられない豚肉料理を食事に出され、体力を消耗し、最終的には収容所内で死亡するケースも多々ある。死ねばイスラムの伝統に反して遺体は焼却され、家族のもとに返されることはない。RFAによれば、ネット上でウルムチ郊外の火葬場警備スタッフ50人の急募が掲載されたとか。収容所内での死亡者は私たちが想像するより多いかもしれない。


こうした収容所建設は2014年ごろから始まっていたが、今のように老若男女無差別に収容される状況は、陳全国の「脱過激化条例」施行以降だ。陳全国はすべてのウイグル人が潜在的に反党分子であるとしており、ウイグル人口1100万人すべてに再教育を施さねばならないと考えているようだ。急激に増える収容人数のために施設の増設も急ピッチで行われている。小学校や病院、公園などが強制収容施設に改造され、今やその数は確認されているだけで約180か所という。

こうした強制収容の恐怖は、なにも中国内に暮らすウイグル人たちのものだけではない。2017年7月以降、海外に留学中のウイグル学生たちをあの手この手で呼び戻して強制収容所に入れるケースも相次いでいる。2018年夏までに、エジプトなど中東諸国に留学中の約8000人のウイグル学生が、家族を語ったニセの連絡などで海外から呼び戻されて強制収容されたと推計されている。海外に留学経験をもつ優秀で知的なウイグル人材を中国当局は、危険とみなしているのだ。

そして中国当局の魔の手は、日本で学問にはげんだりキャリアを積むウイグル留学生や社会人にも迫っている。

ウイグルの若者にとって日本は人気の留学先の一つという。ウイグル語と文法が近い日本語はウイグル人にとっては学びやすく、また小さいころからなじんでいるアニメや漫画の影響で日本に強い憧れを持っている。漢族留学生と比べると圧倒的少数派ではあるが、そのぶん一族に裕福なビジネスマンや官僚がいて、なおかつ頭脳優秀な選ばれしエリートが多い。奨学金を受けている人も少なくない。

こうしたウイグル留学生たちの誰もが昨年春以降、つまり脱過激化条例施行後、日本に居ながらにして様々な形で迫害、圧力を受け続けている。東京近郊の公立大学で経済学を勉強中のある男子留学生は「2017年10月から家族と連絡が途絶えた。メールしても返事がない。人づてに父と弟が強制収容所に送られたときいた。婚約者の妻の父親も強制収容所に送られて、2017年10月に収容所内で死亡した。理由はわかりません」

留学先からでは家族が収容所に入れられても、詳しくは誰にも事情は聞けない。盗聴されている電話やチャットでは、“収容”と言う言葉を使うだけで、収容所送りの理由になってしまうからだ。家族から「父が入院した」と言われれば、それは病院に入院したのではなく、強制収容されたのだと“察する”しかない。切実な問題としては、一族の長が強制収容所に入れられると、学費送金などが途絶えてしまうことだ。「勉強を続けたいし、帰国すれば私自身も強制収容所に入れられる。だからバイトを頑張って学費と生活費を稼ぐしかないが、留学生に許された週28時間のバイトではとてもたりない。7月のビザ更新のときは、出入国管理局から(バイトが多すぎるので)厳しい質問もされました。ウイグル人が直面している事情を説明しても、なかなか理解してもらえなくて」

地方の大学院で博士号を取得し今年から東京で就職、幼馴染と結婚もしている32歳の男性は「本当は卒業後、日本で得た学位と知識をもって故郷の大学で講師になる予定だった。ですが、母親と岳父が次々と強制収容されました。理由は私が留学したから。私も家族も新疆独立など政治的な興味は皆無で、故郷に貢献したいと思って留学しただけなのに」。彼の懸念はパスポートが来年切れることだ。在日中国大使館はウイグル人のパスポートの再発効手続きは中国本国でやらねばならないという。だが、おそらく帰国したとたん強制収容所行きだ。実際、パスポートが更新できず帰国したあと消息不明になったウイグル留学生は一人や二人ではない。

東京やその近郊の大学や院に通う約10人のウイグル留学生や4人の社会人にインタビューしたが、いずれも家族に複数の収容者がいた。いずれも過激思想とは無縁の裕福なビジネスマンや学者・知識階級のインテリ層で、中国当局が建前に掲げているテロ対策とは全く関係なさそうな人たちばかりだ。むしろ裕福な彼らの財産没収が狙いであったと説明された方が納得いく。

家族が強制収容され、1年以上も顔を見ることも言葉を交わすこともできず、安否や居所すらわからない苦しみはいかほどか。送金切れによる学費・生活費の問題、パスポート切れの不安にさいなまれて「今ならISに入って中国人を殺してやりたいと思う人の気持ちがわかる」という人もいる。

彼ら彼女らは、その苦しみや悩みを打ち明ける人がほとんどいない。ウイグル人同士でも相手が当局のスパイで自分の告げ口するのではないか、と疑心暗鬼に陥ってしまう。日本人の友人や指導教官や大学の相談窓口に説明しても、21世紀の中国でこれほどの民族浄化・迫害が現在進行形で行われているとは、なかなか信じてもらえない。いや信じていても、中国人留学生の多いキャンパスでは、中国への配慮の方が優先されてしまうのかもしれない。

ウイグル問題は、見方によってはシリアの内戦などよりも残酷な人道的問題である。観光客が普通に訪れることができる一見平穏な新疆ウイグル自治区の街や村で、ウイグル人は厳しい監視下に置かれ、家族がある日忽然と消えても、収容先で急死しても、何事もなかったかのような幸せなふりで“日常”を営まねば、今度は自分が収容されかねないという恐怖を抱えている。だから、ウイグルの内面を知らない人は、むしろ「治安が良くなった」などと感じてしまうのだ。

だからこそ、この問題にはより強い関心と注意深い観察が必要なのだ。そして、縁あって日本に留学したり就職したりしているウイグル人の苦悩や境遇に日本政府は多少の同情心をもってもよいのではないか。日本の政府や企業が一帯一路戦略に協力して利益を上げようというならなおさら、文科省や入国管理局のルールを少し曲げて、人道上の理由の特例としてウイグル学生のパスポート期限切れや学費滞納、バイト時間制限の問題に寛容な措置をとったり、ウイグル学生に対する学費支援や就職支援も考えてみたりしてはどうだろう。


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著者:福島香織(ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家)
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