… … …(記事全文1,912文字)
忘れもしない、2006年の2月7日のことだ。
あれからもう19年の月日が経っている。
国会で審議中の小泉総理の耳元で何かささやき、メモを渡す人物がいた。
「えっ、何?」という表情を見せた小泉氏だが、メモを見るや呆然とし、がっかりしたような様子に変わった。
それとほぼ同時だったと記憶しているのだが、テレビの画面には速報が流れた。
「紀子さま ご懐妊」である。
そうか、今のはその知らせだったのだ。
しかしそれならばなぜ、呆然とするのだろう。
日本人なら、ぱっと明るい表情となり、男の子だったら待望の皇位継承者だ、と未来に思いを馳せるはずである。
実はその当時、皇位継承については女性天皇もやむなしという状況にあり、皇位を男系男子に限定している、皇室典範改正についての有識者会議が開かれていた。
小泉氏もすっかりそのつもりでいたのだろう。
だから「紀子さま ご懐妊」の文字に、頭が混乱してしまったのかもしれない。
一方、安倍晋三氏は冷静であり、もしかしたら男の子が生まれるかもしれないから、皇室典範改正は見送るべきだと小泉氏を説得することに成功したのである。
このニュースから少しして「月刊文春」からこの件についての原稿依頼があり、私はこんなタイトルの文章を寄せた。
「男子誕生の確率高し」
あくまで確率的な問題であるが、動物行動学の知識を持って論ずることの幸せを感じながら書いた。
そもそも、男の子と女の子は必ずしもランダムに生まれてくるわけではない。
産む側の女の事情が影響するのだ。
まず、若い頃には女の子、歳をとってからは男の子をよく産む傾向がある。
男の子というのは女の子よりも、妊娠期間が少し長く、大きく生まれ、その後も大きく育つ。
やんちゃでもあり、とにかくエネルギーがかかる。
とすれば、子を産むという長い道のりを考えると、最初のほうでは省エネ型の女の子を産むべきだということになり、実際にその傾向があるのである。
また女の子というのはわずか2~3歳で下の子の面倒を見られるようになる。
そういう意味でも先に女の子を産んでおくことが有利になるのである。
ある文化人類学の研究では、「女女男」の順に生まれたきょうだいの場合が一番生存率が高いという結果だった。
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