… … …(記事全文2,876文字)『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ 争い・裏切り・協力・繁栄の謎を追う』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳、ダイアモンド社)を読んだ。
700ページを超える大著をパラパラとページをめくりながら、真っ先に読んだのは、「ハイエナ」の件である。
ハイエナと言ってもこの場合、ブチハイエナのことだ。
ブチハイエナは近縁の、シマハイエナやカッショクハイエナとはがらりと様子が違っている。
何でこんな大変革がこのハイエナで起きたのだろう。
もしその謎が解けたらノーベル賞級の業績と言えるのである。
今回、もしかしてその謎の一端が少しでも解けたという報告ではないかと期待したのである。
ブチハイエナの不思議はまず何と言ってもメスのほうがオスらしいということである。
体が大きいだけでなく、擬ペニスと擬睾丸までがある。
擬ペニスは陰核、つまりクリトリスが発達したものだ。
ペニスとクリトリスはオスとメスとで本来、発生学的に同じものなのでこれは納得できる。
しかし擬睾丸は陰唇が癒着し、脂肪の塊となって発達することによってできる。
できたはいいが、そのために膣はふさがってしまうのだ。
では子はどうやって産まれるのかといえば、擬ペニスの中を通ってである。
実はこの事実を以前雑誌で書いたところ、読者から大変なお叱りを受けた。
「そんなわけないだろ!」と。
その方には『ネイチャー』に載っているブチハイエナの図解を送ったところ、
「ははー、失礼いたしました」というお返事が戻ってきた。
無理もないことだ。
膣がふさがったら、擬ペニスの中を通って子が生まれるなど誰が信じられよう。
擬ペニスにはまた尿道も通っていて立ちションが可能となっている。
動物にタブーはない! 動物行動学から語る男と女
竹内久美子(動物行動学研究家 エッセイスト)