この度の千葉豪雨は,大きな被害をもたらしました.お亡くなりになった方々に謹んで哀悼の意を表するとともに,被災者の皆様に改めてお見舞い申しあげます.
今回の千葉豪雨では,8月16日時点で床上浸水709棟,床下浸水790棟,全壊2棟,半壊11棟という住宅被害のほか,10名の死者が報告されています.
この「10名死亡」という報道に触れて驚かれた方も多かったのではないかと思います.
かくいう当方も,大変に驚きました―――なぜなら,床上浸水が700棟を超えるような大きな水害が生じても,必ずしも死者が10名を超えることは一般的ではなかったからです.
例えば,過去数年の床上浸水数が今回の千葉豪雨以上となった水害の床上浸水数と死者数を調べてみますと,以下のように,1~5人程度と報告されています.
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豪雨の日時・名称等 床上浸水 死者数
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2023年9月 台風第13号 794棟 3人
2023年7月 秋田豪雨 2,903棟 1人
2023年7月 九州北部豪雨(福岡県) 1,129棟 5人
2022年8月 新潟・石川豪雨 1,675棟 2人
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これら4つの豪雨はいずれも,今回の千葉豪雨よりも多くの床上浸水数を記録しているのですが,死者数は,今回の「半分以下」でしかなかったのです.
それではなぜ,今回,その洪水の規模に比べて多くの犠牲者が出てしまったのでしょうか―――?
ついては改めて今回の10名の死亡事例のそれぞれを確認しましたところ,道路冠水のために車中でお亡くなりになった方が3名,冠水した道路で死亡が確認された方が4名と,冠水との関連が不明だが路上で死亡が確認された方1名,その他2名とそれぞれ報告されていました(8月16日の千葉県資料:第9報).
つまり,道路冠水・道路付近での死亡は少なくとも全体の70%,道路冠水あるいは移動中というカテゴリーで考えるなら,全体の80%となっているのですが,これがこれまでの水害死の事例とは,その傾向が著しく異なっているのです.
例えばこちらの研究論文(https://cir.nii.ac.jp/crid/1520290884726905728)に報告されている複数の数値を用いると,水害の犠牲者の原因別の割合は,以下のように推計されます.
土砂災害 約48%
河川・用水路 約16%
道路冠水・移動中 約12%
自宅・施設内の浸水 約6%
その他 約18%
(注:原因外力別および遭難場所・行動状況別の各集計値をもとに、本稿の分類に合わせて概略的に推計)
これによりますと,豪雨による犠牲者のおおよそ半分が,「土砂災害」による死者数であり,次いで,河川や用水路で溺死する割合が16%となっています.
そして,今回,死者数の80%を占めた「道路冠水・移動中」の死者数は,過去の例では,12%という,今回の六分の一以下の水準に過ぎなかったのです.
つまり,今回は,土砂災害や河川の流れに飲み込まれるかたちで亡くなった方はほとんどおられなかった一方で,大半の方が道路上あるいはその近辺で命を落とされたのです.
こうなった直接の原因は,恐るべき集中豪雨で,多くの道路が一気に冠水してしまった一方,その冠水した道路を自動車で利用しようとしたという点にあるのではないかと―――考えられます.
もちろん詳しくは,個々の事例の詳細な分析が求められるところですが,少なくとも10人中3人は,車中で亡くなったのであり,残りの方のうち1人も,冠水した道路を自動車で利用していて,動けなくなり自動車から外に出た後に,死亡したと報告されています.さらにそれ以外の3名は,経緯は不明ですが「冠水した道路」でなくなっています.
つまり,冠水が直接的原因で亡くなったと見られる方が4人(40%),関連が疑われるかたちで亡くなった方も含まれば合計7人おられるのです(70%).
……
その点を踏まえますと,「レベル5に相当する水害情報が十分に認識されないまま移動が続けられた」,あるいは「豪雨時であっても,自動車での移動であれば一定程度安全だと考えられた」といった事情が,今回の死亡ケースの一部に関わっていた可能性も考えられます.
もちろん,個々の犠牲者が実際にどのような情報を把握し,どのような判断をしていたのかは,現時点では明らかではありません.しかし少なくとも,豪雨時に自動車で移動すること,さらには冠水している道路を自動車で通行すること自体が,大きな危険を伴いうることは改めて認識する必要があります.
…そうである以上,激しい豪雨の時には,自動車といえど決して安全な移動手段ではないのだ,という認識を,幅広く国民の間で共有することが必要だと言えるでしょう.
さらには,冠水部分を自動車で通過することは特に危険なのだということを,幅広く国民の間で共有し,一般的な防災常識として定着させることは,とりわけ重要ではないかと考えます.
国交省やJAFはかねてから,冠水道路を走行することの危険性を繰り返し強調してきましたが,残念ながらそのリスクは十分に国民に浸透していなかったという実態が,今回の被害を通して明るみになったと言うことができるでしょう.
ついては是非とも皆様も,将来起こりうる同種の洪水の際には,こうした豪雨期間中の自動車利用,とりわけ冠水部の通行の「危険性」をしっかりと思い起こしていただきたいと思います.
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