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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

アサドに振り回される世界と平和を守れない国連の機能不全
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■  天木直人のメールマガジン2013年9月1日第653号 ■   =============================================================  アサドに振り回される世界と平和を守れない国連の機能不全  ==============================================================  いま我々が目にしているのは、絶対的な悪であるアサド独裁軍事政権を世界が咎められないままシリア国民の犠牲が放置されてきた不条理である。それを許す国際社会の無責任さである。  これはとても深刻で国際政治や世界の平和を語る上で重要な事なので、少し長くなるがここで再び私の考えを述べてみたい。  まず私がここで言う「絶対的な悪」とは、国家が国民から委ねられている実力(軍事力、警察力)を権力維持のために自国民に向かって行使し、自国民を殺戮、排除する事を言う。  これは基本的人権に最大の価値を与える戦後の民主主義の考え方にとっては譲る事のできない絶対悪である。  残念ながらそのような絶対的に悪の政権は世界にあまたある。  中東に限っても、サダム・フセインのイラクやカダフィのリビア、ムバラクのエジプトとシリアのアサのどこが違うのかという問いかけは誰でもできる。  しかし、私はレバノンの三年間の勤務を通じてシリアのアサド父子がシリア国民や隣国レバノンにどのような事をしてきたか目撃してきた。  他の国を語る資格は私にはないが、シリアに限っては絶対悪だと自信を持って断言し続ける。  知ってしまった以上、この私の考えは変わらない。  いまは、シリアが平和を取り戻し、どうすればシリアの無辜の国民を救えるか、その事を世界が考えることが最優先されるべきである。  ここでいう平和とは何か。その平和を実現するために武力行使は、いかなる場合であっても、どの様なものであっても、絶対に容認されないのか。  今問われていることはこの事である。  我々は平和といえば主権国家間の戦争と考える。そしてそれは今でも戦争の主要な形態だ。  しかし今回の平和の破壊はそれではない。  国家権力と国民の間の戦いである。  そこから発展したシリア内戦である。  ここが今度のシリア問題を考える重要なポイントである。  内戦と言えば一方にアサド政権があり、他方でそれと対峙するいわゆる「反シリア反政府勢力」があると二つを対等に考えがちだ。  しかし、この反政府勢力は、その後様々な勢力が紛れ込んで来て複雑化していると言われているが、そもそもは弾圧されたシリア国民がアラブの春に勇気づけられ立ちあがった勢力だ。  どの場合もそうだが、軍事力、警察力を持った国家権力に立ち向かうには命がけの勇気がいる。  ましてやアサド政権に対する国民の反乱は、アラブの春の中でも最後の反乱とも言うべき「あり得ない」反乱だった。  アサド政権の弾圧は苛斂誅求を極め、外国勢力の支援なくしては勝てるはずがない反乱だった。  内戦に関わる二つの勢力は決して対等ではない。  そこに外国勢力が紛れ込む余地があり、立ちあがったシリアの反政府国民も一枚岩とはなりえなかった。  しかし、それらの理由は、だから反体制勢力もまた悪い、とはならない。  ましてやアサド政権が正しい、などという事には決してならない。  今度のシリアの内戦は、米国やイスラエルの工作の結果だと主張する意見に至っては言語道断の暴論である。  多くの無辜のシリア国民は、なにもできず、ただ平和を願うしかない。  どちらでもいいから平和に戻ったほうがいいと考えるのは自然だ。  しかし、だからといってアサド政権をこのまま放置すれば事態の混迷はさらに続き、犠牲者は増える。  もはや事態がここまで来た以上、アサド政権に代る民主政権の実現に向かって世界はそれを後押しするしかない。  世界の監視の下で新しい政権の下でシリアは再出発するしかない。  どうすればいいか。  もちろん軍事力の介入を伴わない形でそれができればいいに決まっている。  しかしアサド政権が自発的に政権を手放さないことはこの2年間が証明している。  その間に多くの無益な犠牲者が出た。  国際社会の圧力、関与によってアサド政権に退陣を迫る事しかないのである。  オバマの米国は最後の一線が化学兵器の使用だと言い、それが行使された以上もはや軍事介入しかないと言い出した。  私は化学兵器の使用を軍事介入の最大の決め手にしたオバマは自縄自縛に陥ったと思っている。  私は個人的経験からアサドが化学兵器を使った事は間違いないと思っているが、もちろんアサドはそれを否定するし、アサドに加担するロシアは「馬鹿げた」と一蹴している。  私から言わせればアサドやロシアの反論は「馬鹿げた」たわごとだ。  何でも米国が悪いと考える陰謀論者は米国のやらせだと決め付ける。  米国の軍事優先主義を批判して来た私だが、私はシリアに限ってはその考えはとらない。  むしろ米国はその間違った中東政策、対シリア政策の故に、いまそのツケを払わされているのだ。  国連が明確な結論など出せるはずはなく、従ってどちらが化学兵器をつかったかという無責任な意見の応酬によって問題の本質が曖昧にされる。  問題は化学兵器の使用の有無ではなく、アサド政権による自国民に対する非人道的な実力(軍事力、警察力、拷問)行使であるとオバマは言うべきだ。  オバマ大統領はもうひとつの間違いを犯している。  それは化学兵器がテロに渡ったらどうなるのかという脅しだ。  このような言い方をすると、やはり米国はテロとの戦いのためにアサド政権を打倒するのが目的だと見られてしまう。  むしろ逆だ。  オバマはテロとの戦いのためにアサド独裁政権を利用した。  アサド独裁政権を甘やかし、その独裁に目をつぶってきた。  そのアサドが、民主化を求めて立ち上がった国民を弾圧し、それがついに許容できないほど非人道的になってしまった。  その結果、シリアが混乱し、このままいけばシリアがテロの巣屈になる、そのおそれが出てきたからこそもはやアサド政権を放置できなくなったのだ。  オバマはアサド政権の非人道的暴力が一線を超えたと言うべきなのである。  さてそれでは国際社会は、非人道的な国家権力が一線を踏み越えた時、それを止めさせることができるのか、そのために有志連合の武力介入が認められるのかという問題に行き当たる。  この点こそ今回のシリアへの軍事介入の最大の論点である。  そしてこの問題こそ世界の平和と憲法9条に関係する最大の問題である。  結論からいえば私は止むを得ないと思っている。  やり方によってはシリア国民の被害を最小限にとどめ、アサド政権から軍事力を奪い、アサド政権の退陣を促すことができると思っている。  そして米国はその事に専念すべきだ。  こう言うと絶対的平和主義者は、もはやお前に憲法9条を語る資格はない、などと批判するものが出てくるかもしれない。  私は自分ほど最強の護憲論者はいないと自負しているので、そのような批判にはたじろがない。  そのかわりにそのような絶対平和論者に問いただしたい。  それではどうしたら2年以上も続いているシリア国民の犠牲を救えるのかと。  我々は人道的見地から軍事介入した例をコソボで目撃した。  あの時もNATO空爆の是非を巡って国際社会は分裂し、その適否は今も定まっていない。  しかし少なくともミロシェビッチの非人道的行為は阻止された。  これを要するに世界の平和実現に関する国連の機能は二つの意味で大きな限界を露呈したままなのである。  一つはもちろん安保理決議が拒否権発動で成立しないことだ。  戦勝国の5大国が作った安保理優先、拒否権優先の国連が平和機能を麻痺させてきた事は周知の事実だが、冷戦が終ってもなお拒否権を一方において米国が、他方においてロシア、中国が使い続ける。  これは国連の安保理が平和を担保できない事を証明している。  私は国連改革の本質は、この5大国が独占している安保理から、全加盟国の総意である国連総会に平和維持機能を移行させることであると思っているが、いずれにしても国連はこのままではもはや世界の平和を維持できない。  この事は憲法9条を守ろうと主張する護憲論者にとっては極めて深刻なことなのである。  なぜならば憲法9条の大前提は国連憲章の下で平和維持活動が有効に機能することにあるからだ。  国連が自国の平和を守ってくれないなら自分で守るしかないということになる。  いかなる場合でも武力を行使してはならないという絶対平和主義者の意見は尊いと思うし、絶対平和主義は人類の目指す究極のゴールであるが、残念ながら現実の世界政治はいまだその域に達していない。  ましてや絶対平和主義は今の国連の下では通用しないのだ。  絶対的平和主義論者だけでは憲法9条は守れない。  二番目の国連の限界は、そもそも国連の平和維持機能は主として主権国家間の戦争を想定したものであって、内戦、内政に国連が関与することまでは想定されていなかったということである。  そして今日における戦争は、もはや確立した主権国家間の全面的な戦争というよりも、内戦、民族分離などによる紛争が主体であるということだ。  コソボもシリア内戦も、コンゴやルワンダの虐殺もそうである。  パレスチナ問題もその典型だ。  このような内戦と、そこで生じる非人道的な権力者の暴力をどう制止するかという事こそが最も深刻な今日的な平和への挑戦なのである。  そこで、今回の米国の攻撃と国際社会の対応、そして日本の対応をどう考えるかである。  まず米国であるが、結論から言えばこうだ。  米国のイラク攻撃は9・11以降のテロとの戦い一環で行なわれたものであって米国のいう先制攻撃による「自衛戦争」だった。  私はこれを強く批判した。  はじめにイラク攻撃ありきで、大量破壊兵器の有無とは関係なくイラク攻撃は行なわれた。  米国は騙されたが、騙される理由があったのだ。  イラクに大量破壊兵器がなくてもあっても米国は攻撃したが、攻撃する以上はあったほうが都合がよかった。  その予断が、容易に騙される素地につながったのだ。  米国国民は自国が攻撃されることを許さない。  圧倒的米国国民の多くがイラク攻撃を支持したのはそういう理由があった。  しかし今度のシリア爆撃は違う。  シリアの内戦はそれが反米テロに向かわない限り米国民にとってはどうでもいいことなのだ。  そこへイラク攻撃のトラウマがある。  大量破壊兵器に騙されたという苦い記憶がある。  国内経済問題に苦しむいまの米国国民はシリア攻撃どころではない。  今回の米国の無関心は、決して米国民の平和主義から来ているのではない。  同じ事は英国も同様である。  そもそもパレスチナ問題の混迷の原因は英国の中東に対する植民地政策の矛盾から来ているというのに、もはや今の英国には中東和平に関わる余裕も影響力もない。  あるのは米国とともにイラク攻撃に参加した事の反省だけだ。  そして国際社会の多くは英国と同様だろう。  シリアの内戦がどうなろうと自分たちには直接関係はないのだ。  それどころか米国の攻撃で中東が混乱すれば様々な方面で悪影響を受ける。  だから米国の攻撃はないほうがいい。そういう事なのだ。その程度なのだ。  今度の米国のシリア攻撃に際し、反戦が盛り上がらない理由がそこにある。  それでは米国の本音はどうか。  米国の最大の関心事は中東に反米政権が広まることを阻止することである。  その為に米国はあらゆる陰謀、工作を繰り返してきた。  シリアが混乱し、そのスキに乗じてシリアが反米テロの巣屈になり、シリアの化学兵器や武器がテロの手に渡るのは阻止したい。  だからこそ米国はこの二年間、アサド政権に対する態度が優柔不断であったのだ。  しかしもはやアサド政権をこのまま放置していてはむしろマイナスだと考えるに至ったということだ。  もちろんそれは一義的には米国の安全保障の為にである。  しかし、私はアサド政権の非人道的な行為をこれ以上放置出来ないという人道上の理由もオバマには間違いなくあると思う。  その意味で私はオバマがおかれている苦渋に私は同情的だ。  国民の圧倒的な支持を得て間違ったイラク攻撃に踏み切った当時のブッシュと比べれば、そのブッシュの反省の中でシリア攻撃に否定的な議会や国民の前で、人道的な理由でシリア攻撃に踏み切らざるを得ないオバマは、それが米国の大統領の役割だと言えばそれまでだが、損な役回りに置かれていると思う。  ブッシュがいまのオバマならこの役割は似合わないだろう。  あっさりと攻撃したか、それとも関係ないといって今度は攻撃などしなかったか、どちらかかもしれない。  オバマだから苦渋が漂うのだ。  私は米国の軍事主義には反対だが、国連が機能しない中で、世界の警察国家の役割を果たせるのは米国しかないと思うし、米国には正しく、公正な警察国家になってもらいたいと思う。  それを果たす人道的な価値観を持っている大国は米国しかないと思っている。  ロシアや中国がそれを果たせるはずはない。  残念ながら米国は軍事主義から逃れられず、公正で中立的な警察国家足り得ない。  その理由は、米国が軍需産業とユダヤロビーのくびきから逃れられないからだ。  米国が、そのくびきから脱却して世界の平和に公正に関わるようになれるのなら、日米同盟のあり方も根本的に変わるだろう。  私の否定的な日米同盟観もまた変わるかもしれない。  ひるがえって今度の米国のシリア攻撃について日本はどう対応すべきか。  私の答えは簡単明瞭だ。  米国の単独攻撃を「支持」するのではなく、コソボの時と同じように「理解」するのである。  そして化学兵器の使用についてはそれがアサド政権によるものであることを独自の情報で判断するのである。  アサド政権が化学兵器を使用した事を100%証明できる情報など誰も持つ事は出来ない。  しかしアサド政権が化学兵器を使用した事を推測できる情報は、どの国も日頃情報活動をまともに行なっているのなら、かなりの情報が得られるはずだ。  そしてそれを判断するのは主権国家の責任と権限で行なうしかない。  日本は長年の間シリアに大使館を置いてきた。  アサド政権がどのような政権であるかを知らないはずがない。  すべてを米国に判断に委ね、その米国に迎合することばかりを考えているようでは、まともな外交ができる時も出来なくなる。  日本はいまこそ常日頃の外交を活かして、独自の判断でアサド政権に向かい合う時だ。  憲法9条を持つ日本は如何なる武力行使も賛成は出来ない。しかし非人道的なアサド政権の行為を阻止するためにそれしかないのであれば、米国の武力行使も止むを得ないと理解する。米国にそのような武力行使をさせないためにも、アサド政権は潔く政権を下りるべきだ、と世界に向けてその立場を堂々と発信すべきである。  日本のそのような発信を批判できる国はどこにもない。  アサド支持者以外のシリア国民はそんな日本を評価すうだろう(了) ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください。 ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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