… … …(記事全文3,353文字)「作詩の技法 後編」(なかにし礼著・2640円・河出書房新社)
「どうしたのこんなに遅く?」
金子由香里さんが不思議そうな顔。場所は銀巴里。老舗のシャンソニエです。
髪の毛もトレンチコートもずぶ塗れのなかにしさん。
「ちょっと歌が聞きたくなって」
なにげない顔で嘘をつく。ホントは訳詞の代金を受け取りにきたくせに・・・。
「訳詞やってほしいんだけど。とってもいい歌があるんだけど」
「気が向いたらね」
前金でくれないか、と言いたいところをぐっとこらえる。金に困ってないような口ぶり。
ステージの歌が終わって目当ての木村正明さんが向かってくる。
「この間お願いした歌できた? いま持ち合わせがないけど」
金はないけど歌を頼んだことは忘れていない。一日でも早く欲しいんだろう。
「いいよ、この次で。別に今すぐでなくたって」とまたまたやせ我慢。
「貸してあげる」
横で聞いてた仲マサコさんがポンとお札を2,3枚テーブルに置いた。
「じゃ借りとく。明日返すからね」とにっこり笑ってなかにし礼さんに払ってくれた。
すぐにも帰りたかったけど、「歌が聞きたくてぶらりと寄った」と言った手前、金子由香里さんの歌を聞くしかない。
金がなくなると歌を書く。こんなこといつまで続けてるんだ・・・と。
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