… … …(記事全文3,040文字)この二週間くらいをかけ、少しずつ少しずつ読み進めてきた本がある。
『こころは遺伝する DNAはいかに〈わたし〉を形つくるか』(ロバート・プロミン著、田中文訳、河出書房新社)だ。
著者のプロミンは行動遺伝学が専門で、1980年代から双子研究、養子双子研究などを通じて遺伝と環境の影響について調べている。
双生児であっても、いっしょに育った一卵性双生児(遺伝的にまったく同じ)、別々に育てられた一卵性双生児、いっしょに育てられた二卵性双生児(同時に生まれたが、別々の卵子に別々の精子が受精しただけであり、普通のキョウダイと同じ)などといろいろあり、行動や行動の背後にある心理について遺伝と環境の影響を調べることができるのだ。
人は、一卵性双生児の姿形がほぼ区別がつかないほどに似通っていることに、さすがに異論は唱えない。
しかし、行動や心理について遺伝の影響を論じようとすると、たちまち頭に血が登ってしまう人がいる。
「遺伝決定論だ」「何から何まで遺伝で決まるなんておかしい」と。
しかしそもそも、遺伝子は行動や心理については、それをさせる確率を高めることはあっても、絶対にそうさせるということなどできない。
それは遺伝子の実体、つまりDNA塩基配列と、その情報を元につくられるアミノ酸とそのつながりであるタンパク質というものを考えれば納得のいくことなのだが、そういうことをすっ飛ばし、とにかく遺伝子は何もかも決めてしまい、抗う余地を与えない、優生思想だ、けしからんと憤る人たちがいるのだ。
実際、著者のプロミンもプロローグの中で「30年前は、人間の行動に違いをもたらす遺伝的な原因を研究して、それについて科学誌で発表するなんてことは、専門家として危険な行為だった」と書き、しかし今や「私の目的は、ポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)に配慮して言葉をやわらげることなく、データにもとづいた真実をお伝えすることである」と書く。
それは行動について遺伝がますます重要であるとわかってきたこと、そして近年この分野に革命(プロミン曰く、DNA革命)が起きたことが関係している。
まず、前者についてだが、一つは「環境の中の遺伝」という考えである。
環境と言うと普通は本人とは関係なく、受動的で、周りから与えられただけのものだと考えてしまう。
読書好きな親は子どもに本をよく与え、子どもも読書好きに育つ―。
実際、子どもは親の遺伝子の半分を引き継いでいるから読書好きの可能性も高い。
ところが本人の持つ遺伝的性質が環境を選んで呼びこみ、修正し、作り変えている部分も実はかなり大きい。
読書好きな子どもは親に本を読んでほしいとか、買ってほしいとさかんにせがむだろう。
親は子が持つ、読書好きの遺伝的性質の個人差に反応するというほうが大きいのかもしれない。

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