… … …(記事全文2,907文字)「名著の話 僕とカフカのひきこもり 後編」(伊集院光著・1650円・KADOKAWA)
今回の伊集院さんのお相手は石井正己先生。東京学芸大学の先生です。
題材は柳田国男の『遠野物語』・・・おもしろかなしい、くさしょっぱい話たち、というサブテーマがついてます。
「遠野物語」は取り上げたことがありますし、取り上げた本を取り上げたことも何回かあります。それだけの名著だということです。
山の神や里の神、家の神のほかに天狗や河童、幽霊などが登場します。フォークロアで地域地域に伝わる不思議な話、それも短い話で簡潔な文語体でまとめられています。
柳田国男はそれらの話を目前の出来事、現在の事実だと主張しています。
ネタは岩手県遠野ら東京に出て作家を志望していた佐々木喜善という人。
かなり訛りがひどくて聞き取り難かったようですが、実に希少な価値ある話と柳田は懸命に耳を傾けたのだ、と思います。
語りの佐々木喜善は若い作家仲間の間では「怪談話の名手」として知られていたとか。世が世なら稲川淳二さんになっていたかもしれません。それだけではなく、東京の都市伝説話も得意だったとか。なるほど作家を目指すのも当然かもしれません。
この作品に絶対の自信があったものの 、文化人や学者は認めない。泉鏡花と芥川龍之介だけが絶賛したといいます。もっとも泉鏡花は柳田の親友です。彼が亡くなる間際、枕元に呼ばれたのも柳田でした。
一方、中国の周作人やロシアのニコライ・ネフスキーが強い関心を寄せていたとか。中国で翻訳されたのもその縁でしょう。
凡人は認めなくても、1人の天才認められればそれで御の字ではないか、と思います。いずれだれかが評価してくれるものです。
最晩年、「遠野物語は名著だ」「データでありながら文学だ」と指摘したのは三島由紀夫でした。とくに絶賛しているのが22話。
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中島孝志(作家・コンサルタント etc)