… … …(記事全文3,179文字)「暗闇坂」(三田完著・1930円・文藝春秋)
心を病む妻。その妻に献身的に尽くす俳優の夫。ピアノ調律師の木島は仕事をきっかけに、いつしか不可思議な夫婦の生活に巻き込まれていく…。愛と憎しみ、官能をテーマにした書き下ろし長篇です。
「暗闇坂の家でピアノ調律師の木島を待っていたのは、一台のプレイエルと一組の夫婦だった。かつてロカビリー歌手として一世を風靡した俳優の七條雅史と、心を病む妻・彩美。互いに愛憎相半ばする奇妙な夫婦に魅せられた木島は、やがて彩美に誘惑されて関係を持つ。だが、どうやらそれは雅史も承知の上のことらしい。三人の行き着く先は果たして……。オール讀物新人賞でデビューした実力派新人作家による、渾身の書き下ろし恋愛小説です」と担当編集者。
「調律してちょうだい。ピアノでなく私を・・・」
東京港区麻布界隈は坂だらけ。鳥居坂、芋洗坂、饂飩坂、暗闇坂・・・。アップダウンの多い界隈です。
あたかも大小を腰に帯びた侍や薄汚れた手ぬぐい頬被りした巾着切りが往来している処。貴重な名前の坂道があちらこちら。坂にまつわる由緒を記した案内標識が道端にひっそり。
たとえば、「暗闇坂・・・樹木が暗いほど生い茂った坂であったという。以前の宮村町を通るため、宮村坂とも言った」とあります。
息が切れるほどの勾配。左にオーストリア大使館。右は古い石垣。
目指す七條邸は近い。木島は息を整えてポケットからタバコ・・・。
「忘れました。もう15年くらい調律してないと思うな」
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中島孝志(作家・コンサルタント etc)