2026年8月20日(木曜日)10時46分頃、東武鉄道日光線新鹿沼の1番線旧ホームで請負工事業者の作業員4人が特急〈スペーシア X 2号〉浅草行きに衝突し、4人死亡の惨事があった。東武鉄道は18時に国土交通省で記者会見が行なわれた。国土交通省は「鉄道事故」と認定し、引き続き調査が行なわれる模様だ。
この日、新鹿沼駅構内で除草薬散布の工事中だったという。普通の雑草があるだけで列車の安全運行に支障をきたすとは到底思えず、明るい時間帯に工事をしなければならないほど、緊急性が高い事案でもあるまい。一部のローカル線でも生い茂った雑草のなか、列車は時刻通りに走っているのだから。
これまでの報道を見たうえで、気になることをあげておきたい。
①除草薬散布の工事をいつ始めたのか
日光線新栃木―下今市間の日中時間帯は、定期の特急、各駅停車とも毎時1~2往復で、運転本数が少ない。仮に工事が10時30分から始まった場合、最初に姿を現す列車は特急〈スペーシア X 2号〉浅草行きである。
10時30分開始の場合、いきなり除草薬を散布するとは考えにくい。場所や散布の仕方などを確認するのではないだろうか。
報道によると、新鹿沼駅の手前約300メートルのところに中継見張り員が立ち、特急〈スペーシア X 2号〉浅草行きを確認すると、黄色の旗を上げたという。特急〈スペーシア X 2号〉浅草行きの運転士は警笛を鳴らし、中継見張り員が立っていることを確認した。
ただ、駅の手前約300メートルというのは短いような気がする。
参考までに、N100系スペーシア Xがブレーキをかけたときに発生する減速度は、常用3.7km/h/s、非常5.3km/h/sである。
私は『keisan』(カシオ計算機の子会社、リプレックスが運営)というサイトを使い、ブレーキ反応時間1秒、80km/hで走行した場合に止まる距離を調べたところ、常用3.7km/h/sは制動距離240.2メートル、減速距離262.4メートル。非常5.3km/h/sは制動距離167.7メートル、減速距離189.9メートルである。あくまでも私の推論なので、正解という保証はない。
おそらく、東武鉄道が綿密な計算をしたうえで、新鹿沼駅手前約300メートルに決めたのだろう。ただ、約300メートル手前の起点は1番線の列車停止位置なのか、各ホームの下今市寄りに建つ跨線橋付近なのかはわからない。
しかし、鉄道事故が起こってしまった。新鹿沼―東武日光間は勾配区間で、上り列車は北鹿沼を発車、もしくは通過すると、ゆるやかな右カーブの下り坂を下りたあと、地平を走行する。急カーブでないとはいえ、見通しのよい区間ではないと思う。
報道によると、下今市側の中継見張り員が新鹿沼旧1番線の下今市寄りに立つ列車見張り員とは、意思疎通がとれなかったという。新栃木側と下今市側に立つ中継見張り員、旧ホームの列車見張り員も請負工事業者がやるとは思えない。
②退避場所と駅員の確認
明るい時間帯の工事、点検というのは、当たり前のことながら、列車の営業時間帯でもある。列車が近づくと、駅間の場合は線路の外側に退避する。
今回の場合は退避場所が明確に決めていたのか、疑問も残る。
新鹿沼駅は1929年4月1日(月曜日)に開業したので、ホーム下に避難できるスペースがない。東武鉄道に限らず、そのような構造の駅のホームが多い。こればかりはホームの建て替え、駅そのものを移転しない限り、現状のままで、改良も難しい。そこは御理解いただきたい。
気になるのは、中継見張り員、列車見張り員、作業指揮者、作業員のすべてが工事時間帯におけるダイヤを把握していたのかだ。新鹿沼10時46分に停車するのは、1番線の特急〈スペーシア X 2号〉浅草行きのみ。隣の2番線から3番線のあいだに退避する、あるいは旧1番線の外側に退避することが考えられる。退避におけるマニュアルはどうなっていたのだろうか。
もうひとつが駅員である。
死亡した作業員4人は1番線の線路に立っていた。新鹿沼駅は有人駅なので、列車の接近放送が流れるほか、駅員もいる。駅員は1番線に立ち、特急〈スペーシア X 2号〉浅草行きの到着前、安全確認で線路上に立つ作業員4人の存在に気づいたのだろうか。気づいていたら、大声を張り上げるなど、隣の2番線から3番線のあいだに退避させたのではないか。
工事を把握していたにもかかわらず、ホーム上などの安全確認を乗務員任せにしていたら、問題視せざるを得ない。
③請負工事業者は鉄道の現場で、1度でも作業をしたことがあるのか
死亡した作業員4人のうち、3人はなぜか職業不詳だという。除草薬を散布した経験がないのだろう。また、東武鉄道は請負工事業者の素性を把握していたのだろうか。
作業指揮者も含め、鉄道の現場で作業経験がないのなら、工事前に東武鉄道から研修を受けるなど、万全を期してから工事すべきではないだろうか。
私は取材で、車両基地の線路内に入らせていただいている。メディアの貸し切りではないゆえ、取材中でも列車が通過することもあるので、現場の社員はかなり目を光らせている。また、東京メトロ中野車両基地、横浜市交通局上永谷車両基地、北大阪急行電鉄桃山台車庫の取材では、第3軌条の饋電を停止し、感電事故の防止に努めている。鉄道事業者というのは、いつも安全に厳格なのだ。それゆえ、今回の事故は大変遺憾である。
最後に、この事故を報じた日本テレビの『news zero』は、新型特急を強調することに違和感を覚える。事故に新型車両がどうとかはまったく関係ない。鉄道の報道公開参加が多いゆえ、うぬぼれているのだろう。村尾信尚氏が舌鋒のメインキャスターを務めた『NEWS ZERO』に比べ、レベルが低くなったと感じる。苦言を呈す。
テレビが「オワコン(終わったコンテンツ)」「オールドメディア」と揶揄されるのもわかる気がする。
☆備考
①東武鉄道ホームページ
東武日光線新鹿沼駅構内における作業員の触車事故について
https://www.tobu.co.jp/cms-pdf/releases/20260820171601RiOQdOMAwZTfve5-U5vcwQ.pdf
②『東武時刻表』2026年3月14日号(東武鉄道刊)
③keisan
https://keisan.site/
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