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稲葉義泰のミリタリーレポート ─軍事と法から世界を見る─

稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)

稲葉義泰

先制軍事力行使に関する学説整理(後編)

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00255/20230228221918106132 //////////////////////////////////////////////////////////////// 稲葉義泰のミリタリーレポート ー軍事と法から世界を見るー https://foomii.com/00255 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●先制軍事力行使に関する学説整理(後編)● ●無制限自衛権論  制限付き自衛権論とは反対に、憲章51条は慣習国際法上の自衛権を制限するものではなく、むしろ保証するための規定であり、そのため先制軍事力行使を含む慣習国際法上の自衛権は憲章51条においても損なわれることなくそのまま引き継がれているという主張があります。これを「無制限自衛権論」と呼ぶことにします。  無制限自衛権論においては、国家が自国を防衛する際に「現実の武力攻撃」の発生を待つ必要はなく、その「急迫した脅威/危険(imminent threat/danger)」が生じた段階で防衛行動をとることができると主張されます。この立場の代表的な論者として、イギリスの国際法学者であるバウエット(Derek W. Bowett)と、アメリカの国際法学者であるマクドゥーガル(Myres S. McDougal)を挙げることができます。  無制限自衛権論の立場を最も如実に表明しているのは、バウエットの次のような見解です。すなわち、憲章は2条4項において「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止したが、それには「いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するもの(も)、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるもの」という条件が付けられています。そうだとすれば、「自国の領土保全、政治的独立、自国民の生命財産を防衛するという目的に限定された行動が、他国の『領土保全又は政治的独立に』反するものと解すこと」は出来ず、さらに自国の安全を保障することを「(国際の平和および安全という)国際連合の目的と両立しない」ものと捉えるのは不可解である、という見解です。  さらにバウエットは、憲章の起草過程を検討した結果、起草者達は「自衛権を制限するためではなく保護する」ために51条を挿入したと結論付け、これらの見解と、51条の「自衛の固有の権利(inherent right of self-defence)」という文言はここで規定されている自衛権が憲章から独立して存在しているということを示しているという見解とを併せて、憲章51条は慣習国際法上の自衛権をそのまま引き継いでおり、そこには一切の制約も含まれていないと主張するのです。言い換えれば、憲章2条4項においては、自衛権はそもそも武力行使禁止原則の対象には含まれておらず、故に憲章51条は2条4項に対する例外規定とは見なされないと主張しているようにも見えます。
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