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稲葉義泰のミリタリーレポート ─軍事と法から世界を見る─

稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)

稲葉義泰

先制的な軍事行動とイスラエル(後編)

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00255/20221231231417103882 //////////////////////////////////////////////////////////////// 稲葉義泰のミリタリーレポート ー軍事と法から世界を見るー https://foomii.com/00255 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●世界で最も有名な先制的軍事行動 「オシラク原子炉攻撃」●  1981年6月7日、イラクのバグダッド近郊にあるトゥワイサ(Tuwaitha)研究センターで、フランスからの技術提供を受けて建設されていたオシラク(Osiraq)原子炉を標的としてイスラエル空軍機がイラク領内に侵入、これを爆撃して破壊しました。作戦を実施した翌日の6月8日、イスラエルは安全保障理事会に書簡を提出し、作戦に関する報告を行っています。それによれば、オシラク原子炉は核爆弾を製造するための施設であり、その標的はイスラエルとされていました。さらに、原子炉は1981年6月初め、あるいは9月初めに完成し、稼働するとの情報を入手したため、もし稼働してしまえば破壊に伴う放射能汚染によってバグダッドの住民に深刻な被害が発生すると判断し、稼働前に作戦を決行したと主張しました 。  オシラク原子炉攻撃は、先制自衛の実例として最も広く認識されている事例の一つといえるでしょう。というのも、イスラエルは自国の行動を先制自衛の行使と主張し、その合法性を訴えたためです。イスラエルは、先制自衛の権利を肯定する著名な研究者らの見解を引用したうえで、憲章51条においても慣習国際法上の自衛権が引き続き認められており、かつ憲章51条にいう武力攻撃およびその攻撃の脅威という概念は、核兵器の登場という現代の兵器の発展に合わせて調整が求められていると主張したのです。  こうした法的整理に基づき、イスラエルは、①イラクが1948年以来継続してイスラエルとは戦争状態にあると宣言している点、②イラクも締約国となっている核兵器不拡散条約(NPT)と、それに基づく国際原子力機関(IAEA)保障措置(safeguards)には抜け穴が存在する点、③イラクが購入したウランは科学的な研究目的というよりもむしろ兵器開発を目的としていると考える方が理に適っている点、そして④イラクは開発した核兵器をイスラエルに対して使用する意図があるという点を挙げて、自国の行動はイスラエルに対するイラクによる核攻撃の脅威に未然に対処したものであると主張したのです。 ●国際社会からの厳しい反応●  ところが、この作戦に関する国際社会の反応は非常に厳しいものでした。安全保障理事会は「決議487」を全会一致で採択し、その中でイスラエルの行為を「国連憲章および国際的な規範に対する明白な違反」と位置付け、さらに「NPTに基づき設立されたIAEAの保障措置全体に対する深刻な脅威」を構成するものであるとしてこれを強く非難し、同様の行為の再発防止を促しました 。また、同年11月13日に採択された国連総会決議(G.A. Res. 36/27, 13 November 1981.)においても、イスラエルの行動を「侵略行為」と位置付け、さらに「イスラエルに対し、核施設に対する威嚇と武力攻撃の中止を求める厳粛な警告(solemn warning)」を発して、これを強く非難したのです。
… … …(記事全文3,309文字)
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