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稲葉義泰のミリタリーレポート ─軍事と法から世界を見る─

稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)

稲葉義泰

法執行における「実力の行使」と「武力の行使」の違い(後編)

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00255/20230131222740105057 //////////////////////////////////////////////////////////////// 稲葉義泰のミリタリーレポート ー軍事と法から世界を見るー https://foomii.com/00255 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●法執行における「実力の行使」と「武力の行使」の違い(後編)● ●軍艦に対するuse of force  一方で、前編で触れた民間船舶に対するものではなく、軍艦に対する武器使用が問題になった事例も存在します。それが、2018年に発生したケルチ海峡事件です。2018年11月23日、ウクライナ海軍の小型砲艦2隻とタグボート1隻が黒海沿岸にあるオデッサ港からアゾフ海沿岸のマリウポリ港に向けて出港し、アゾフ海への入り口であるケルチ海峡を通航しようとしました。ところが、ロシア側がケルチ海峡の封鎖を通告し、さらに航行を妨害してきたため、ウクライナ艦艇はオデッサ港へ引き返そうとしました。すると、ウクライナの小型砲艦に対してロシアの沿岸警備隊が発砲し、これを停船させた上に3隻の乗員を全て拘束したというのが事件の概要です。  この事件に関して、2019年に国連海洋法裁判所(ITLOS)は暫定措置命令を下しましたが、そこでこのロシア側の行動が法執行活動にあたるのか、それとも軍事的活動にあたるのかについての判断を示しています。ITLOSは、法執行活動と軍事的活動の区別については、「各事例の関連する状況を考慮に入れ、問題となっている行動の性質の客観的な評価を行うことによらなければならない」とし、この事件に関しては、①ウクライナ海軍艦艇の拿捕はケルチ海峡の通航を巡って発生している、②この紛争の核心はケルチ海峡の通航制度をめぐる双方の解釈の違いにある、③ロシア側による船体への発砲は、停船命令、追跡および警告射撃の後に行われている、という三点がとくに重要なポイントであるとしました。そして、これらを踏まえて考えると、この事件におけるロシア側の行為は軍事的活動というよりも法執行活動における実力の行使にあたるとしたのです。  このケルチ海峡事件におけるITLOSの判断を整理すると、たとえ武器を使用した相手が軍艦であったとしても、そもそも紛争の原因が領土紛争などではなく、またその武器使用の目的が国内法令の執行(この事件の場合はウクライナによるロシア国境侵犯の罪に対する措置)であって、かつそれが停船命令や警告射撃など法執行活動の手順に従って行われた場合には、その武器使用は軍事的活動における武力の行使ではなく、法執行活動に伴う実力の行使と見なされ得るということになります。  ただし、そもそも国際法上軍艦には免除が認められているため、ロシア側の行為は国際法上の根拠がない違法な執行管轄権の行使にあたるという点には留意する必要があります。つまり、これは武力行使ではないけれども、免除との関係で国際法には違反していると言えます。
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