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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

くどいようだがもう一度だけ書くいておく。TPPよりもWTOである。
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月27日発行第225号 ■       ===============================================================          くどいようだがもう一度だけ書いて置く。TPPよりもWTOである。     ===============================================================  APECが終わってTPPがらみの記事がメディアから遠ざかった感が する。  しかしいずれ必ず議論が復活する。日本経済の将来にとって避けて通れない 問題であるからだ。  その時のために今書き残しておく。  圧倒的にTPP推進論がメディアをにぎわせている中で、慎重論を唱える 経済学者が浜 矩子(はま のりこ)同志社大学教授であり金子勝慶応大学教授 であると私はこのメルマガで書いた。  その数少ない経済学者のなかに中谷巌一橋名誉教授が加わった。  11月20日の東京新聞「本音のコラム」でこう書いていた。  日本の林業が壊滅的な状態になってしまったのは、適切な産業政策がない まま1964年に木材の輸入完全自由化に踏み切ってしまったことにある。 農業、漁業の競争力を強化するための十分練られた産業政策がないまま、関税 ゼロの自由化だけを先行すれば、かつての林業と同じ事になる。TPP参加を 急ぐ事はない、と。  しかし浜 矩子教授といい、金子勝教授といい、そしてこの中谷教授といい、 私にとっては今ひとつしっくりこない。私の求めているものではない。  そう思っていた時に、まさしくこれだ、と思わせる論説を見つけた。  しかもそれは経済学者から提起された意見ではない。経済記者の言葉だ。  11月24日の毎日新聞「記者の目」で行友(ゆきとも)弥(わたる)と いう経済部記者が要旨次のように書いていた。  「・・・菅首相はTPP参加を『平成の開国』と強調するがTPPは 太平洋を取り巻く少数国間の協定であり、世界全体ではない。世界共通の 貿易ルールは世界貿易機関(WTO,加盟国153カ国・地域)の多角的 貿易交渉(ドーハ・ラウンド)で議論するのが筋だ。  WTOでは『最恵国待遇』が原則だ。例えばA国がB国に対し、ある品目 の関税率を下げたら、その関税率は他の全加盟国に適用されなければならない。 『相手によってルールを変えてはいけない』という原則だ。一部の国だけ 適用する貿易ルールはWTOの精神に反している。  WTOや、その前身であるGATT(関税貿易一般協定)が最恵国待遇を 基本原則としたのは、第二次世界大戦の苦い教訓があるからだ。1929年 に始まった世界恐慌に伴い、欧米列強や日本は自国を中心とする経済圏に 高関税の防波堤を張り巡らした。この事が貿易を縮小させ、世界経済を低迷 させ、軍国主義やナチズムの台頭を招いて世界大戦を引き起こした。  TPPも米国を中心とした排他的な経済ブロックになりかねないと思う。  ドーハ・ラウンドの最大の停滞原因は中国、インドなど新興国と米国の 対立だ。ラウンドでは、関税だけでなく農業補助金の削減も求められる。 米国は巨額の補助金を国内農家に出しているが、補助金で生産者の所得が 補われる分だけ農産品を安く輸出でき、新興国や途上国の農業を圧迫している。  政治的理由で補助金を減らしたくない米国と、市場開放を最小限にとどめ たい中国、インドの対立で08年7月に閣僚会議が決裂し、ラウンドは事実上 の凍結状態に陥った。  米国にとっては、WTOよりもTPPのほうがずっと都合がいい。補助金 削減という代償を払わず、他国の市場開放というメリットを得られるからだ。  TPPは開かれた自由貿易の理想郷ではない。米国のしたたかな世界戦略に 乗ることが『開国』の実態だ・・・」  私が言いたかった事が見事にこの説明の中に言い尽くされている。  貿易自由化に異論はない。しかしその交渉は最恵国待遇を大原則とする WTOの交渉を通じて行なうべきだ、という事である。  米国はみずからつくったGATTやWTOを、自国の都合により捨て去ろう としているのである。                          了

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