□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月19日発行第213号 ■ =============================================================== 円高より深刻な日本経済の競争力の低下 =============================================================== 私はメルマガ第209号で、突然「TPPに乗り遅れるな」と言い出した 菅首相に正面から疑義を呈するただ一人の経済学者として浜 矩子(はま のりこ)同志社大学教授の事を書いた。 実はもう一人の経済学者がいる。慶応大学教授の金子勝氏だ。 金子教授は11月3日の日刊ゲンダイの自らのコラム「天下の逆襲」で 「TPPに参加したところで米国が日本製品をバンバン買ってくれるはずは 無く、むしろ郵政の資金運用を米国にやらせろとか、月齢30ヶ月という 牛肉輸入の条件をなくせといった対日要求を次々してくるだろう、経済が ボロボロの米国がドルを下げ、輸出拡大で稼ごうとすることに付き合わされ るだけだ」、と書いていた。 これはどちらかと言えば政治的な解説であるが、11月17日の同じ 「天下の逆襲」では、日本企業の経済力が低下している中ですべての関税を ゼロにするようなTPPに参加すると日本は大打撃を受ける、と、経済的 観点から再び反対していた。 それを読んだ私は、本当に日本の経済力はそれほど低下してしまったのか、 かつてGATT交渉が華やかなりし頃は、日本の製品の競争力は強く、 だからこそ自由貿易体制の促進は日本の利益になる、と言って関税引き下げ 交渉に熱心だったではないか、と反論したくなった。 ところが11月18日の産経新聞で伊藤元重東大教授が、「日本の未来を 考える」という論説欄で、「円高より深刻な国力低下」と題して、「この 程度の円高で経済が厳しくなるほど日本の国力が落ちている事を嘆かなくて はならない」と書いているのを見つけて、さらに驚いた。 伊藤教授によれば現在の1ドル80円前後という水準は、円高が実質的に ピークであった95年に比べてまだ30-40%も円安であると言う。 それでも産業界の実情を聞いていると楽観はできないようだ、と言う。それ だけ日本の産業の競争力が落ちてしまったのだ。より正確な言い方をすれば、 それだけ周辺国の競争力が高まったのだ、と言う。 TPPに乗り遅れれば関税で差がつけられて生き残れない。さりとて自由 競争になれば競争力で勝てない。 かつて、ジャパン・アズ・ナンバー・ワンと言われていた日本経済は、 もはや過去の日本経済ではないのか。 法人税の引き下げとかエコ制度の導入とか、いたずらに政府に優遇政策を 要求する事は企業弱体化の裏返しなのだろうか。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)