□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月13日発行第198号 ■ =============================================================== 置き去りにされようとしているWTO =============================================================== 自由貿易交渉といえばWTOにおける交渉であるのに、なぜここにきて 二国間や地域的な自由貿易交渉に脚光があてられるようになったのか。 私はその事に対する疑問について書いた。 それに正面から答えてくれる解説記事をやっと見つけた。 それが11月12日の東京新聞の「置き去りのWTO」という解説記事だ。 坂本正範氏の記名記事だ。 彼は要旨次のように書いていた。 ・・・WTOは現在153カ国・地域が加盟。ドーハ・ラウンドは2001 年に開始され当初は05年1月に終了するはずだった。 しかし関税率引き下げなどをめぐる先進国と途上国の対立が解けないなど 妥結の見通しはたっていない。 加盟国が多いだけに利害が錯綜。さらに、多数決ではなく全加盟国の コンセンサス方式で決定するため交渉進展が難しい。 こうした弱点を突く形で急増しているのが、利害調整がしやすい二国間や 複数国間の自由貿易協定(FTA)であり、包括的経済連携協定(EPA) や、環太平洋連携協定(TPP)だ。 今回のAPEC閣僚会議はWTO(ドーハ・ラウンド)について「11年が 極めて重要」とラストチャンスの意味合いをにじませた声明を出した。 しかし米国が自国農家には巨額な補助金を支払いながら市場開放を迫り、 それに対して中国やインドが米国を批判するなど根強い対立がある。 2011年中のWTO交渉の妥結の可能性は、「ゼロではないが、低い」 (日本政府関係者)。 ただ、WTOは貿易交渉だけでなく、紛争処理という重要な役目も担う。 「WTOは当面、紛争処理に特化するぐらいでもいいかもしれない」(三菱 総合研究所対木さおり主任研究員)という意見がある・・・ この坂本氏の記事は、要するに米国の主導によってWTOは歴史的役割を 負えさせられようとしているということだ。 有志連合の話し合いで米国に有利なあらたな自由貿易体制がつくられようと しているということだ。 11月11日の産経新聞はこう書いている。 中間選挙の敗北を受け、雇用に直結する輸出増強策の提示を迫られたオバマ 大統領は(一連の首脳会議で)自由貿易への積極姿勢を鮮明に打ち出す、と。 自由貿易交渉は超党派の妥協が成立できる数少ない分野(アメリカン・エン タープライズ研究所のオースタイン研究員)、であると。 すべては米国の思惑である。 しかし、米国の思惑通りには行かないだろう。 経済的利害の対立は、「テロとの戦いのように軍事力にものを言わせて ねじ伏せる事のきるものではないからだ。 新しい国際経済体制づくりの為の息の長い経済交渉が始まったばかりと 言うことだ。 日本が一人あせる必用はない。ましてや孤立するなどはありえない。 対米従属から自立した日本の戦略を考えるべき時なのである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)