□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月12日発行第197号 ■ =============================================================== 大手メディアの報道がいかにいい加減かという話です =============================================================== 私がメルマガを書き続けられるエネルギーの源の一つは、大手メディアの 報道が時として見逃す事のできない間違った報道をすることがあるからだ。 それを見つけた時、一人でも多くの人にそれを知らせたいという思いに 駆られるからである。 それが不勉強から来る誤りであれば笑って済ませることもできる。 しかし作為のある誤誘導であれば許せない。 そのいずれかであるかはわからないが今日(11月12日)の紙面から二つ 指摘してみる。 一つは読売新聞の社説だ。 思いやり予算の日米交渉が大詰めを迎えている中で、その社説は 「現状維持」は妥当な判断だ、という見出しで、米軍駐留経費の負担は 「思いやり」ではなく、日本の安全保障に必要な経費だ。現状維持をして 交渉を早くまとめろ、と書いている。 日本側の負担は必要経費だとする考えが正しいのか。その事をここでは 議論しない。 現状維持を決断して交渉を早くまとめろという論説のピントはずれを 指摘したいのだ。 ハワイ沖で先般行なわれた事務レベルの交渉では現状維持を提案した 日本側に対し、米側は増額要求をして交渉がまとまらなかったと報じ られた。 今日11月12日の産経新聞は「同盟弱体化」という連載特集記事の中で 次のようなエピソードを紹介していた。 去る11月4日、霞ヶ関の外務省で極秘裏に行なわれた日米審議官級協議 において、日本側が「話が違うじゃないか」と絶句した場面があったという。 10月28日の前原外相・クリントン国務長官会議で、現状維持を伝えた前原 外相に対してクリントン国務長官は同意した、だからオバマ訪日の土産にできる、 と日本側が考えていたのに、米側はさらなる要求を求めてきたからだ。 事業仕分け、予算の政策コンテストによってあらゆる予算を削減しようと している中で、思いやり予算だけ「聖域」にする。 そのこと自体が問題であるというのに、それでも交渉はまとまらないのだ。 現状維持はもはや当然で、増額に応じるかどうかが日米交渉の争点なのである。 読売新聞の社説ははっきりとこう書くべきだ。 米国の言う通りに思いやり予算を増額すべきだ。日本国民の生活がどうなろう とも米国の要求は絶対だ。日本の安全保障は絶対だ。はやく米国に従え、と。 もっともそんな事を書けばますます読者が離れていくだろう。 もう一つはソウルで11日に開かれたオバマ大統領と李明博韓国大統領との 首脳会談で米韓自由貿易協定の追加協議がまとまらなかったというニュース である。 3年前にノムヒョン前大統領の下で締結、調印された米韓自由貿易協定で あるが、牛肉の関税撤廃などでその実施が頓挫しているのだ。 菅首相は韓国が次々と二国間の自由化貿易交渉を進めている事にあせっている と報道された。 TPPに参加しないと日本は取り残される、国益を失う、とさんざん報道 されたばかりだ。 何のことはない。どの国も国内産業優先は譲れないのだ。個別交渉は今後も 続いていくのだ。 交渉が進めば進むほどあらたな問題が出て行き詰まるのだ。 なにも慌てる必要はない。日本が取り残されるなどということは決してない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)