□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年7月17日発行 第21号 ■ ───────────────────────────── 人を動かすのは、最後は心意気だ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 随分昔の話になるが、かつて田原総一郎の日曜日朝のテレビ番組に 一度だけ呼ばれ、外務省の先輩OBである岡崎久彦氏と日米同盟の是非 について議論をしたことがあった。 その時、正確な言葉は忘れたが「日米同盟から自立して平和外交に戻ら なくては日本の未来は暗い」というような趣旨の事を言ったとたん、後ろ から塩川正十郎元衆院議員が、「そんな理想的なことばかり言ってどう するんだ」と横槍を入れてきた。 私がとっさに口に出した言葉が、「政治家が理想を語らなくてどうする のだ」だった。 以外にも塩川正十郎氏はたじろいで「それも、そうだ」と引っ込んだ。 しかし、その時も今も、私は「理想」を語り続ける事は簡単な事ではない と思っている。 ましてやそれを実現しようとする事は至難の事だ。 それから数年たち、今の日本では、ますます理想を語る事が難しくなって 来たようだ。 ましてやそれを実現する事はもっと困難になりつつあるように思う。 その端的な例が、参院選挙が終わってからの数日間の間に見られる政治家 の動きであり、それを報じるメディアのワンパターンぶりである。 当選した政治家が与野党こぞって馬鹿げた娯楽番組に顔を出してメディアの しもべに成り下がっている。 その一方で与野党の代表者が政治討論番組に出ては「正論」を吐き続けて いる。 自己総括という名の自己宣伝にうつつを抜かしている。 そこに見られる姿は「理想」を語る政治家の姿ではない。 与党政治家も野党政治家も、次の選挙のために名前を売り込もうとする 「現実的な」姿である。 与党代表も野党代表も、来るべき政局で自分たちがいかに優位に立てるか という「現実的」な政党の姿である。 そして、そんな政治家や政党を愚弄し、利用して番組作りを行なう メディアの「現実主義」である。 だからどんな「正論」も同じように聞こえる。 どんな「正論」も心に響かないの。 これとは対照的に、私はパレスチナ人の言葉に感動させられる事が多い。 私がよく引用する言葉に「我々はオリーブと塩だけでも生きていける」 という言葉がある。 これはパレスチナの抵抗組織ハマスの指導者ハニヤ氏が、選挙に勝った とたんに米・イスラエルからテロ呼ばわりをされ、ガザを封鎖された時に 述べた言葉だ。 その言葉を聞いた時、私は震えるほどに感動した。 傍観者の私が感動したくらいだ。ましてや苦しんでいるパレスチナ人の 先頭に立って命がけで訴えたその言葉に大衆は勇気づけられたに違いない。 もちろんオリーブと塩だけでは生きていく事はできない。一月ほどで ハマスは白旗を揚げる事になる。 そしてその後もガザの封鎖は続いている。 ガザはいまでも「巨大な監獄」のまま国際政治に放置されたままだ。 我々には遠い世界の出来事であるが、中東を知っている国際世論に とっては耐えられない状況である。 だから人道支援物資を搬入しようとする動きが絶えないのだ。 そんな中で、私は再び心に響くパレスチナ人の言葉を見つけた。 朝日新聞の井上道夫エルサレム市局長が7月16日の「記者有論」の中で 書いていた。ガザの市民の自立した生活再建こそ一日も早く実現が望まれる、 と。 その記事の中で紹介されていたガザ市民の次の言葉が私の心を捉えた。 「我々は魚を取る方法を知っている。『釣りざお』さえあれば、自分たち の力で復興させてみせる」 これは一年半ほど前のイスラエル軍の大規模攻撃で破壊されたガザが、 復興したくても建設資材の搬入ができないため、今も瓦礫のままとなっている 悔しさを語った言葉である。 実際のところパレスチナ人の多くは勤勉で優秀だ。 その彼らが復興・自立したくてもそれさえ阻まれている。 こんな不合理が放置されたままでいいのか。 この不正義を見事に訴える言葉である。 その言葉にに心揺さぶられるからこそ世界中から反米・反イスラエルの 共鳴者が後をたたないのだ。 損得を忘れてガザへ救援物資を搬入しようとする動きが止まらないのだ。 人間は弱く臆病だ。 身を守るために現実的にならざるを得ない。 しかしそんな臆病で、現実的な人間でも、最後は心意気で動く。 人間は打算だけではない。 了 ≪メルマガに関する問い合わせは、info@foomii.com へ直接ご連絡願います≫ 出版記念会のお知らせ 「さらば日米同盟」の出版記念講演を、政治評論家の森田実さんの ご参加を得て以下の通り行ないます。 森田さんとの打ち合わせで当日のプログラムは以下の通りとなりました。 13:35-14:00 天木直人「出版の意図を語る」 14:05-14:45 森田実 「特別講演」 休憩 15:00-16:00 天木直人・森田実対談(司会天木) 16:00-16:00 聴衆との応答(司会天木) 日時 8月8日(日) 午後一時開場 場所 赤坂区民センター大ホール 港区赤坂4-18-13 地下鉄銀座線・丸の内線 赤坂見附駅 A出口徒歩10分 大江戸線・半蔵門線 青山一丁目駅 4番出口徒歩10分 参加 無料(予約の必要はありません。直接会場へお越し下さい)。 (連絡先:春田 090-2415-7617 u12u9lo6@image.ocn.ne.jp ユー12ユー9エルオー6) なお講演会の概要については次のURLを参考にして下さい。 http://d.hatena.ne.jp/Takaon/20100702
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)