□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年7月5日発行 第5号 ■ ───────────────────────────── だまされて終わる普天間問題 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 政治家もメディアも参院選挙と消費税問題で明け暮れている時に、 とんでもない事が進んでいる。 あの普天間問題が丸め込まれて終わろうとしているのだ。 それを見事に教えてくれる記事を私は見落とさなかった。 一つは7月3日の読売新聞のスクープ記事である。 米国が海兵隊の戦闘部隊をグアムに移転すると日本政府に伝えてきた 事が明らかになったという。 より正確に言えばこうだ。 2006年に合意した「(米軍)再編実施のための日米ロードマップ (工程表)」で合意されていた在沖縄米海兵隊約8000人のグアム移転 について、米側が当初の予定を修正し、司令部の一部を沖縄に残すかわり に同規模の戦闘部隊をグアムに移転するという。 戦闘部隊が移転すれば、沖縄での訓練が減るほか、事件や事故の可能性 も減る、だから地元の負担軽減につながる、という。 しかし、もう一つの記事がある。それは7月4日の東京新聞の記事 である(同様の記事は4日日経、5日朝日にも見られた)。 ゲーツ国防長官が6月中旬に日本政府に書簡を送り、海兵隊のグアム 移転経費のさらなる増額を求めていた事を複数の日米外交筋が3日明らか にした、という記事だ。 この二つの記事は米国と菅政権の合作による普天間基地の落としどころ を見事に物語っている。 就任早々菅首相は日米共同声明の合意を実行すると国民の前であっさり 認めた。そしてそれをオバマ大統領に約束した。 その一方で沖縄住民の反発の声はおさまらない。 誰が考えても菅民主党政権は苦境に立たされる。皆がそう思っている。 ところがここに大きな名案があったのだ。 米国が海兵隊のグアム移転に応じ譲歩の振りをする。そのかわり移転費 増額は仕方ないだろう、と国民は丸め込まれる。 かつて小泉首相は、国民が悲鳴を上げるぐらい予算をカットしろ、そう して消費税増税も仕方がないだろうと思わせろ、などと嘯いていた。 それと同じだ。 国民は普天間問題に疲れ果てた。いつまでたっても普天間問題ではない だろうと思い始めている。そこへきて海兵隊のグアム移転を米国が言い 出した。これは米国の譲歩ではないか、少しぐらい負担を増やしてもいい だろう、となる。 これは日米官僚が仕組んだ菅民主党政権への支援策である。 米国にとってはもはや壊滅した自民党など用済みである。菅民主党政権を 助けて、その菅民主党政権を今まで以上に対米従属にすればいいだけの話だ。 しかしごまかされてはいけない。 そもそも在沖縄米海兵隊のグアム移転は、米軍再編の一環として米国が 米国の都合で決めていた事だ。 それが直ちに実現出来なかったのは、グアムのインフラ整備に時間と予算が かかるからだ。 その間に日本で政権交代が起こり、にわかに普天間問題が急上昇した。 ところが海兵隊の県外・国外移転ばかりが騒がれ、沖縄住民の負担軽減 ばかりが取り上げられた。 肝心の在日米軍の縮小・撤退が脇に追いやられた。 それを逆手に日米の官僚は問題をすりかえたのだ。 日本の要求どおり海兵隊をグアムに移転させようではないか。これで 沖縄住民の負担は軽減するではないか。日本側の要求どおりではないか。 その代わりに日本側が負担を少しぐらい増やしてもいいではないか、と いう事だ。 海兵隊のグアム移転、沖縄住民の負担軽減ばかりを訴えてきた社民党は もはや反論できない。 一人日本共産党が文句を言ってもそれは無視すればいい。 その一方で海兵隊がいなくなっても辺野古代替基地の建設はパッケージ 合意であるから、予定通り建設される事になる。海兵隊のためではなく 在日米軍のために。 すべては筋書き通りである。 米国にとって失うものはなにもない。 日本にとって得るものは米国がとうに決めていた在沖縄海兵隊のグアム 移転だけしかない。 在日米軍基地は強化・固定化されていく。日米同盟は深化していく。 日米同盟の是非を国民的論争の的にしない限り真の解決は望めない。 了 ≪「天木直人メルマガ」に関するお問い合わせ、配信不都合などは 以下に直接ご連絡下さい。≫ http://foomii.com/00001/ sousuke@foomii.co.jp
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天木直人(元外交官・作家)