□■□■ 【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年3月24日発行 第85号 ■ ───────────────────────────── 米医療制度改革に見たオバマ大統領の信念 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 米国の国論を二分した百年来の医療改革法案が成立した。 なぜこの問題が米国にとってそれほど大きな問題なのか。 日本人にとってはピンとこないだろう。私もそう思っていた。 昨年の7月、私が独立外交官のカーン・ロス氏を訪ねてニューヨークに滞在していた時、 オバマ大統領が全米の国民に向けて医療改革の必要性を訴えていた。 テレビはそればかり流し、賛否両論が激しくメディアに流されていた。 私が驚いたのは多くの国民がオバマ大統領の医療改革に激しく反対してことだ。 それから一年足らず、この問題がオバマ大統領の最大の政治課題として報じられてきた。 その報道に見られる様々な意見を読みながらやっとわかった気がする。 医療改革に反対する国民こそ米国の姿である。「国のかたち」(3月23日産経)なのである。 貧しくて医療が受けられない国民が2割近くもいる。そのような皆保険のない、弱者切捨ての国 は先進民主国の中では米国だけだという。 それでも米国民の医療保険改革反対の声は驚くほど強い。 今度の改革法案も共和党議員は全員反対だ。身内の民主党議員でさえ強く反対する者がいる。 なにしろ100年間、歴代大統領が果たそうとして出来なかったぐらいだ。 なぜここまで米国民は反対するのか。 それは米国だからだ。 米国は自己責任の国である。国の関与を徹底して嫌う小さな政府の国である。何よりも格差社会が 当然視される国である。 わずか2割弱の国民のために、なぜ我々の税金が使われなくてはならないのか。弱者救済のために 自分たちの負担が増える、しわ寄せを受ける、それには断固反対する。 国民の多くがそう考える国である。 要するに社会主義政策を嫌い、国家権力の介入を警戒する国なのである。 国民皆保険を当然視し、混合診療という名の自由診療に反対する日本では考えられない事だ。 どちらが正しいとか悪いとかの問題ではない。国民の意識、選択の問題なのだ。 そしてここからが私の言いたいことである。 野党共和党議員全員の反対を押し切って、いや、身内の民主党議員の一部反対にも関わらず、 そして何よりも国民の多くが激しく反対する医療改革成立にオバマ大統領はこだわった。外遊を 取り止めてまで法案採決に立会い、賛成を訴えた。 それに対して様々な評論がなされている。 政権浮揚目当てだ。いまさら改革の旗を降ろすわけにはいない。国民皆保険には至らず妥協を 強いられた。今後10年で加入率が現在の83%から95%に上昇する程度だ。それに見合う 必要経費は今後10年間で約85兆円、ただでさえ財政が苦しい時にその財源をどこから捻出する のか、それだけの価値があるのか。などなど。 もちろんオバマ大統領の医療改革の評価は、これからのオバマ大統領の支持率によって明らかに なる。何よりも11月の中間選挙で一つの審判が下される。その結果如何では、オバマ大統領は さらに苦しくなり、次の大統領選挙で再選できなくなるかもしれない。 しかしそれでもオバマ大統領はこだわった。 それは決して選挙対策とか支持率アップを狙った為でなく、オバマ大統領の信念のなせる業では なかったか。私はそう思う。 富裕者がより良い医療を受ける自由を貧困者の医療救済より優先してきた米国。それを、 「これは私が信じる米国ではない」と訴えたオバマ大統領。 それは黒人差別の解消を目指した60年代の公民権運動の精神に通じる(3月23日読売)巨大な 政治改革、意識改革に違いない。 まさしくオバマ大統領は政治家としての信念を貫いたのだ。 「正しい戦争がある」と言ってアフガン攻撃を正当化したオバマ大統領に私は失望した。 その思いは変わらない。パレスチナ問題を公正に解決できないオバマ大統領を私は認めない。 しかし、この医療改革に見せたオバマ大統領の信念に、私は政治家の理想を見る。私が感動を 覚えるゆえんだ。 今日のメルマガで他のテーマを差し置いてこのテーマを選んだ理由がここにある。 鳩山首相は、いまこそオバマ大統領を見習って、自らの信念を貫く政策を実現する時だ。それが 正しければ国民はついていく。 _________ 天木直人のメールマガジン 2010年3月24日発行 第85号

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