オリバー・ストーンが2016年に制作した『ウクライナ・オン・ファイヤー』をネットで見ることができる。現在、日本語字幕版は Youtube では制限がかけられていて、ニコ動で視聴が可能だが、いずれ削除されるかもしれない。ウクライナ問題で西側に都合の悪い情報はネットから周到に排除されているようで、SNS上でリンクが妨害されたり、アドミニによって注意書きが付されたりしている。私のブログ記事もいずれそうした処置の対象になるかもしれない。名匠の作品で、しかも時宜を得た最高の思考材料なのに、ネット上にそれを案内する情報がほとんどない。 私はオリバー・ストーンを評価している。今の世界で信頼し依拠できる数少ない知識人の一人だと認める。『もうひとつのアメリカ史』は傑作で、現代人の必読書だ。今回の『ウクライナ・オン・ファイヤー』も、見る前の想定を超えて感動的な内容だった。ウクライナの戦争がなぜ起こったのか、その社会科学的な真実を知り、その概要と本質を学び取る上で、これ以上の教育素材はないだろう。率直な感想として、心に重いものが残り、プーチンの動機が理解できた。 私はこれまで、今回の戦争の原因について、NATOの東方拡大策を問題視する見方をとってきた。主にその方向からプーチンの思考を整理し、ロシア国家防衛のパラノイアと化したプーチンの発想を理解してきた。それは故岡本行夫と同じ視点であり、キッシンジャーと同じ立場からの観察である。アメリカとEUがあまりに野放図に乱暴に軍事的な包囲と攻略を進め、ロシア封じ込めの圧力に過剰に狂奔したため、プーチンの強迫観念を鬱積させ、窮鼠猫を噛む最悪の事態になったのだと説明してきた。 その点を重視してきた。したがって、プーチンの言う「ウクライナの非ナチ化」の方にはあまり注意と関心を向けなかった。正直、その主張はやや大袈裟な演出的フレーズに聞こえたし、それを戦争の目的や理由にするのは説得力に欠けるのではと感じていた。だが、オリバー・ストーンの作品を見て、その認識を変えさせられた。自分自身の知識の不足を反省させられた。「ウクライナのネオナチ」という問題は、実に根深く、実に重大な近現代史の問題だと気づく。軽くない。それが原因で第三次世界大戦が起きてもおかしくないと実感した。… … …(記事全文3,645文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)