久しぶりに銀座に出て歩くと、街の風景は一変していた。コロナの影響と不安がすっかり消えたかのごとく賑わいが戻り、年末の買い物客で路上も店内も溢れている。コロナ前の銀座に戻ったように見え、また何より驚いたのは、その空間に外国人の姿がいないことだった。中国人観光客が歩いてない。ユニクロ銀座店の中に日本人しかいなかった。こんな絵は9年前の開店以来初めてだ。この店の日本人客の比率はいいとこ30%で、30%が中国人、20%が韓国人、20%が(東京在住含めた)欧米の白人というのがコロナ前の相場であり、清水寺と同様、成田空港コンコースの人種民族の構成比が反映されているのが常だった。 日本人だけで活気を埋めている銀座を見て、10年以上前に戻ったようで懐かしく思われた。だが、よく見ると、10年前とは違うことが分かる。歩いている日本人が変わっていて、昔の中間層の風情ではなく、NHKのニュースに「街の人」として登場してくる富裕層ばかりなのだ。着ているものが違う。誰もコロナ前の「制服」の The North Face など着ておらず、Nike の黑の「制靴」を履いていない。 三越の地下食料品売り場では、年末年始を自宅で過ごすための食材を仕入れようとする富裕層でごった返し、まさに足の踏み場もないほどであった。金を持っている富裕層は鼻息が荒い。コロナ前の中国人観光客そのもので、がめつく我先に人を押しのけて高い商品に手を伸ばす。毛皮のロシア帽をかぶったモデルみたいな女性が、行きつけらしき地下3階の店でブルーチーズを買っていて、いかにも和久田麻由子が報道する「東京の街の人」っぽい感じで、NHKのカメラが撮りに来るのを待っているような趣だった。 100グラム1080円。この肴だとワインも廉価なものでは釣り合わないだろう。話が逸れるが、ワインは日本の庶民が日常の食生活で楽しめる嗜好品ではなくなった。EUとのEPAで輸入ワインが安くなると、あれほど和久田麻由子と桑子真帆が宣伝し、安倍晋三の手柄だと持ち上げまくったが、輸入ワインは安くならず逆に高くなっている。円が安くなり、日本の購買力が低下しているからだろう。ボトルのラベルは同じだが、粗悪な樽が日本市場送りになっているでのはないかと邪推するのは私だけだろうか。… … …(記事全文3,500文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)