「およそ政治をおこなおうとする者、とくに職業としておこなおうとする者は(中略)すべての暴力の中に身を潜めている悪魔の力と関係を結ぶのである。 無差別の人間愛と慈悲の心に溢れた偉大な達人たち(キリストやブッダ)は、暴力という政治の手段を用いはしなかった。自分の魂の救済を願う者は、これを政治という方法によって求めはしない。 政治には、それとはまったく別の課題、つまり暴力によってのみ解決できるような課題がある。(中略)悪魔の力は情け容赦のないものである」(岩波文庫 P.99-101)。 『職業としての政治』の中でウェーバーはこう言っている。再び欧州情勢が緊迫してきたが、その当事者であり、この緊張を作り出している張本人であるプーチンの政治を説明するインプリケーションは、さしずめこのようなものだろうか。 今年4月、ロシアがウクライナとの国境に大軍を動員集結させたとき、ブログ記事で「7年ぶりに大規模な戦闘が起きるのは確実な情勢だ」と書いた。これほどの規模の地上軍を動員するからには、何らかの軍事作戦が計画されているに違いないと考えたからであり、ミンスク合意の履行の確定という目的を達成するために軍事力行使に出るのだろうと予想した。その上でプーチンの計略を読んで、実力ある調停者であるメルケルの在任期間中に事を起こし、再びメルケルの出番を作り、メルケルからウクライナにミンスク合意の完全履行を迫らせ、ウクライナに譲歩させ、果実を得た上で撤兵するというシナリオを描いているのではないかと想像した。 ウクライナが、和平協定である2015年の第2次ミンスク合意を未だ履行しておらず、渋ったままでいるという事実は、小泉悠によっても指摘されている。すなわち、ロ・ウ間の外交的立場上のアドバンテージはロシア側にあり、軍事的圧力をロシア側が正当化し得る前提条件になっている。ミンスク和平の立役者はメルケルだった。… … …(記事全文3,566文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)