09年に出された内橋克人と宇沢弘文の共著による『始まっている未来』。9月に内橋克人の逝去があり、故人を偲ぶ意味でこの機会に読み直した。12年前に読んだときも感銘を受け、PARC自由学校の講演時に推薦書として挙げたが、今回の読後感想はさらに強い印象が残った。12年経っても全く内容が色あせていない。経済を考える上での必須で有用な知識を与えてくれ、しかも対談のオーラルの説明で流れるように平易に教えてくれる。あの内橋克人の口調でやさしく清らかに啓蒙されていく。 推薦書を2冊挙げよと事務局から注文が来たとき、何と何をセレクトしようかと悩んだが、この本を選んでよかったと確信する(もう1冊は丸山真男の未来社本)。市民が読む経済および経済学の入門書として最適の本であり、まさに古典となる教科書だ。正直、12年の歳月の後に再読してこれほど内容に衰えがなく、減価償却されてないとは思っていなかった。二人の知性に感服させられ、と同時に、この10年で一段とこの国の知性が劣化し、平均水準が下がったことを痛感されられる。我が身について反省させられる。 対談録ではあるけれど、対談本にありがちなスカスカ感や冗漫性がない。濃い中身が連なって続く。付箋紙だらけの読書になる。対談を企画した岩波の岡本厚(司会)と清宮美稚子(編集・文章化)の腕前もあるのだろう。内橋克人も宇沢弘文も、この対談のために事前準備はしているのだろうけれど、それ以上に、おそらく、頭の中に正確で重要な知識と情報が詰まっていて、その場の即興で引き出しが開いてどんどん出てくるのだ。そのことに驚かされる。ただの論者ではなく学者だ。 しかも、このとき内橋克人は77歳。宇沢弘文は81歳。自分が77歳になったとき、こんなに内容の濃い、トークの口述がそのまま教科書の講義になるような鋭い議論ができるとは到底思えない。まさに理性と知性の力そのものを見るようで、今度の再読ではそのことに感動を覚えた。全体のテーマは新自由主義批判ということになる。その中身が、経済学の理論史の問題として、日本の政策史の問題として、簡潔に必要十分に要点整理されている。前者は宇沢弘文が熱く論じ、後者を内橋克人が端正に要約する。批判の俎上に上げられている主敵は、フリードマンと竹中平蔵である。… … …(記事全文4,012文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)