今回の選挙結果の特徴の一つとして、ジェンダーやLGBTなど多様性の問題を前面に掲げた政党の敗北が挙げられている。具体的には立憲民主党と共産党だ。二党は今回の選挙でこの問題を争点に据え、自民党との差別化を図り、自らの先進性と優越性を積極的に訴える戦略に出ていた。共産党が訴えた四つの柱の一つが「ジェンダー平等の実現」であり、志位和夫がテレビに出る度に必ずこの論点が強調された。 立憲民主党の枝野幸男も同様で、最初に総選挙に向けた政策アピールのフリップを抱えて登場したとき、そこで提示されたのは - 入管問題とかLGBTとか - まさに多様性に関わる政策カタログであり、この点こそが自民党と立憲民主党を分ける決定的なポイントであると訴求していた。リベラル野党は、この問題がクローズアップされ、選挙の争点になることで、確実に票にプラス効果があると想定したのだろう。そう考えるのも無理はない。マスコミは、選挙期間中もずっと多様性(≒SDGs)のキャンペーンを張り続け、多様性主義を国民に刷り込む思想工作に注力していた。 だが、投票結果は野党の思惑とは裏腹に、多様性政策に対して消極的な自民党の勝利となった。ジェンダー、マイノリティ、LGBT、、の多様性政策にコミットする有権者は、この民意に大いに意外で不満だろう。私の感想はそうではない。日本の国民の多数はこの方面にコンサバであり、上からの多様性主義の怒濤の洗脳教育に十分納得しておらず、なお慎重な意識を保持しているように見受けられる。性や家族のあり方をめぐる価値観において、表面的にはその「正論」の意義を認めながら、本音ではなお保守的で懐疑的な態度のままなのであり、一票を投じて社会制度を変革するまでの必要を感じてないのだろう。 おそらく、それは60代以上の高齢女性層も同じで、決してジェンダー主義の論理と思潮に心から賛同してはいない。むしろ齟齬と違和感を感じ、躊躇を覚えているはずだ。ジェンダー主義の理念を肯定したなら、専業主婦として人生を築いてきた高齢女性たちは、自らの存在を否定されることになる。この四半世紀の日本を直視し、豊かさから貧しさへ墜ちて行った過程を鑑みるとき、マチュアな世代は今の先鋭で過激な「新常識」には頷けない。… … …(記事全文3,613文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)