選挙戦での各党間の論戦と並行して、財務事務次官の矢野康治が月刊誌に発表した「バラマキ」批判の問題が議論になっている。麻生太郎の了承の元で上げたらしく、麻生太郎の代弁を寄稿した内容だ。テレビ各局の報道番組はどれも矢野康治の肩を持つ姿勢で選挙報道に臨んでいて、大越健介がそうであり、反町理もそうである。コロナ禍から国民生活と日本経済を立て直すために、給付金を手厚く支給しようとか、消費税を減税しようとする各党の公約に対して、それはバラマキだと貶め、財政健全化の意識が欠落していると糾弾している。 20年ほど前から、日本のマスコミはその論調で固まった。霞ヶ関もその態度で固まった。弱者国民を救済する経済政策にはバラマキのレッテルが貼られ、邪悪なものとして断罪される。「国民に耳の痛い話をする」ことが王道で正論とされ、負担を上げて社会保障を切り下げる政策の提唱と推進をマスコミは政治家に求めてきた。朝日新聞が率先してその意見を繰り返し、マスコミの常識として染みついている。それが新自由主義の政策であるという認識はマスコミには皆無だ。 できれば、マスコミと霞ヶ関の標準プロトコルである「バラマキ」言説は、今回でピリオドを打つ政治の幕にしたいと思う。「バラマキ」とは分配の問題である。「バラマキ」とは再分配を拒否する側のイデオロギー工作のフレーズであり、狡猾な観念操作の刷り込みである。必要で正当な政策を邪悪化し不当化する言説だ。そこには、国民の税金を集めた国家予算を、教育や社会保障など国民多数の福利のために使うことを原理的に否定する思想が孕まれていて、いわば特権階級が国の予算を専有し私物化することを正当化する動機と意図がある。 今回の「バラマキ」問題について最も正しい反論をしたのは共産党の小池晃で、むしろこれまで資本の側に一方的にバラマキが行われてきたという暴露である。そのとおりだ。小泉構造改革もそうだったが、アベノミクスの政策内容もまた、相次ぐ法人税引き下げを始めとして資本の側へのバラマキ一辺倒の嵐だった。内閣官房HPにアベノミクス成長戦略の資料の8年分があるので確認をいただきたいが、企業へのバラマキと、労働者の人件費を切り下げるための労働法制改悪の羅列と推進だったことが分かる。… … …(記事全文3,600文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)