14日に衆院が解散、選挙戦本番に突入し、夜の民放の報道番組に党首が集結して政策論争を戦わせている。あと16日後に投票があって結果が出る。今回の論争のテーマは経済政策で、成長と分配をめぐるエコノミクスの議論に焦点が当たっている。議論を聞いていると、基調として、アベノミクスは失敗だったという見方が支配的で、岸田文雄の中途半端で空疎な口上も含めて脱アベノミクスの方向性が共通認識になった感が強い。結構なことだ。ただ、各党の党首たちの議論で残念なのは、政策論の前提にGDPの認識と視点がないことである。 GDP論を回避している点だ。「成長」という言葉は飛び交うが、GDPすなわち経済規模の問題について言わず、GDPが何によって構成されているかを説明しない。経済成長とは何かという経済学上の概念が曖昧になっている。この点は、斎藤幸平も同じだが、野党の党首たちも同じ誤解あるいは混乱の中にあり、彼らの主張を国民に分かりにくくさせている要因になっている。野党は、経済成長・GDP拡大を善として思考整理できていない。 竹中平蔵の構造改革と安倍晋三のアベノミクスは、どちらも新自由主義の政策体系だったが、売り文句としては経済成長をアピールし、これこそ成長のための処方箋だと国民に説法し、それを信じ込ませて支持を得ていた。実際には、日本は世界に稀な25年間ゼロ成長を結果させ、人類史に残る不名誉な「奇跡」を達成してしまっている。竹中平蔵の構造改革と安倍晋三のアベノミクスは、こうすればマイナス成長できるという経済失政の見本だった。 だが、それを国民が見抜けず、選挙の度に安倍晋三が勝ち続けたのは、野党の側に経済成長を積極的に導く対案がなく、アベノミクスを各論的一面的に批判するだけで、夢のある前向きで説得的なマクロ経済の構想がなかったためである。現在も基本的にその愚が続いていて、野党のマクロ政策の軸心は、国債を大量発行して財政出動で格差の弊害を埋めるというメッセージに収斂している。平面的というか、視野が狭く、マクロ経済が立体的に捉えられていない。この四半世紀に、米国は3倍、英国は2.5倍、フランスとドイツは2倍に経済規模を拡大させているという事実認識が欠落している。… … …(記事全文3,814文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)