新総理に就任した岸田文雄によって分配の問題が提起され、総選挙に向けた重要な争点になりつつある。当然、議論の焦点として、分配の原資たる内部留保が浮かび上がることだろう。内部留保の存在と実態が解き明かされ、全体がレントゲンされて一望されなくてはいけない。どのような企業が、どれだけの規模を、どのような資産形態でストックしているのか、全容がインベントリー(棚卸し)されなくてはいけない。内部留保の本格的な研究を経済学者に訴えてきたが、日本の職業学者は全く動かず、左翼学者も見て見ぬフリをしているだけだ。 日本の左翼学者は、現在、ジェンダーとマイノリティとLGBTの「多様性」論を喋々する社会学にしか興味関心がなく、格差問題は行政・NPOの絆創膏の手当に任せている。あるいは低所得母子世帯への行政からの支給充実等を言い、国民の税金でケアする方策を論ずるだけだ。新宿の炊き出しに並ぶ労働者が産んだ富が、475兆円の内部留保に積み上がっている事実に着目しない。その本質的な矛盾を世間に問題提起しない。新自由主義化されたシステムによって労働者が不当に搾取されている真実を言わない。 2年前、『三位一体 - GDPの長期低迷、賃金の削減と抑制、内部留保の絶倫増殖』というブログ記事を書いた。その要点は、①内部留保と②配当金と③ケイマンマネーの三つを合計して、年間70兆円ほどのマネーがフローとして蓄積されているという推論と仮説である。9月27日に藻谷浩介が出演した報道1930があり、その機会に読み直し、自説の中身に修正と補足を加える必要を感じたのでご報告したい。まだ明確に整理できてないが、再考を要するかもしれないと思う疑問点は、①と②と③が確実に別々のマネーとして分離独立したものか、足し算できる別個のものなのかという数的要素の問題である。 記事を書いた時点では、三者は会計上確かに別個の資金であり、別々に帳簿に管理され、混同したり混入することはないという認識で自信があった。今、その点に不安を覚え始めた理由は、内部留保という概念に関わっていて、財務省発表の法人企業統計の書式と内容が大きく変動し、そこでの内部留保の定義が変わったからである。言い訳めいて恐縮だが、順番に説明したいので、まず2002年の政府資料PDFをご覧いただきたい。… … …(記事全文3,551文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)