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山中俊之の国際教養から世界の行方を洞察する

山中俊之(著述家・芸術文化観光専門職大学教授)

山中俊之

性別で分けることができないノン・バイナリー社会の時代の到来
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| The Economist (Economist 英語版) <山中コメント> Will the rich world’s worker deficit last?(豊かな世界の労働者不足が永続するか)というタイトルで労働者不足の可能性を論じている。これまでも本ウェブマガで何度も取り上げている論点であるが、永続化の可能性についても言及している点が新しいと思われる。人々の労働観、労働意欲に永続的な影響を及ぼすとすれば大きな分岐点になるだろう。 ●<一つの街、二つの世界> ブラジルでは、警察による黒人住民への殺害事例が増えている。リオデジャネイロでは、白人、混血、黒人の住む場所が明確に分離されており、同じ街でも二つの世界があるようだ。 Rio de Janeiro asks why its cops kill so many black people | The Economist <山中コメント> 私はブラジルが比較的人種差別が少ないと色々な場所で述べてきたが、この記事を見て、一面的であると思い反省した。人間の心理には、人種というもので差別してしまう部分がどうしてもあるようだ。大統領の無策でコロナ禍が深刻化しているブラジルで深刻化する警察による殺害事件について世界はもっと関心を持つべきだ。 ●<テレビがやはり得をした> 東京五輪は、東京の地理的位置もあり、過去数十年で一番視聴率が低い大会になった。しかし、ネットの放映には広告が十分に表示されないなどの問題もあり、結果としてテレビの映像に多くの広告がついた。 The Olympics is a ratings flop. Advertisers don’t care | The Economist (Economist 英語版) <山中コメント> 地理的位置やコロナ禍の影響でやはり盛り上がりに欠けたと捉えられている東京五輪。ネットの放映が今後いかにして広告料を増やすかということも今後は大きな議論になる。 <編集後記> 東京パラリンピックの開会式を見ました。障がいを持っている人々のパフォーマンスには大変に感銘を受けました。障がいを一つの個性とみて、躍動感に満ちた美しいパフォーマンスになっていたと思います。WE HAVE WINGSというメッセージも伝わりやすかったと思います。これまで演劇などの経験のない障がい者の人がオーディションで選ばれた例も多かったようですね。素晴らしい方法であると思います。 //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら   info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ //////////////////////////////////////////////////////////////// 著者:山中俊之(国際公共政策博士/元外交官) ウェブサイト: http://www.yamanakatoshiyuki.com/ Facebook: https://www.facebook.com/toshiyukiyamanaka ////////////////////////////////////////////////////////////////

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