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「芸術作品の見方が分からない」というテーマだ。
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この世界でもっとも美しいものは『太陽の光』。
太陽の光がないと何も輝かない。
美を追求したオスカー・ワイルドは、「太陽に手を出したら堕落する」と、美術品を収集している時に堕落しそうになり、悟ったものだ。
私と切り絵画家の八田員成氏が10月15日から開催するアート展『きりあと』で、私に会いたいと言う男性が、だけど芸術、美術をどう見ていいのか分からない、とDMをくれた。
世の中には、汚いものやグロテスクなものを愛でる変人もいる。後者は恐らく病的だが、前者の場合、「汚いものから美しいものを探す」人間もいる。
典型的な例が、廃墟が好きな人たちだろう。
私は廃墟撮影もしたことがあり、その作品が『きりあと』に一点展示されるが、廃墟は好きではない。だが、廃線の駅舎はとても好きで、その駅が輝いていた時には、美しい男女がホームにあるベンチでどれくらい愛を語りあっていたのか、どんなかわいい子供がホームを走り回っていたのか、錆びれたレールや草に隠れたベンチを見ていて感傷に耽る事ができる。
その駅舎はやがて撤去され、消えていく。
すべての生命、そして生命に愛された物は、消えていく運命にあり、それを嘆く。
そして本当にこの世界からいなくなってしまう。どれもそれを『死』と言う。廃線の駅が無くなるのも『死』。
下の写真は、アート展『きりあと』に別の構図で出品する駅舎の写真。
この駅は現存しているが、老朽化した列車を修理するためにクラファンをしていた。駅の整備も大変だと思う。やがて消えていくのだろう。
我々、写真家や画家が人物を描いた作品の中にいる人物は、すでに過去の生命であり、生きているその瞬間を捉え、永遠に作品の中で輝き、生き続ける。在廊する専属モデルのきくちはなさんのヌードは菜の花などと交わっているが、その瞬間はもうない。
ルノワールの『イレーヌ』は、あの時しか存在しない。イレーヌとルノワールが交流することもなく、作品は行方不明になっていた。
芸術作品を見る力を養うには、その作品の背景を考えればいいのだ。
なぜ、彼女はここにいたのか。なぜ、写真家はこの場所を選んだのか。なぜ、彼女は笑っていないのか、微笑んでいるのか。そして、
なぜ、美しいのか。
何もかも消えていなくなる生命の星だが、唯一、消えない美しいものがある。それが太陽だ。
冒頭に書いた廃墟写真の展示作品に借りたその廃屋は、壁に触れると衣服が一瞬で汚れてしまい、ゴキブリが走るような汚い場所だった。壁に穴が開いていて、今にも崩れそうな建物。ところが、そこで奇跡が起きた。
その壁の穴から太陽の光が射しこんできたのだ。
鬱蒼とした廃墟の中で怯えていた美人モデルさんを太陽の光が包み込む。
「恵那ちゃん、そこで撮る。そこにいて。菅原さん、レフだけでいい。ライティングはいらない!光を鮮明に撮りたい。絞り、4くらいで」
ずっとオヤジギャグを口にしていたマネージャーも黙ってしまった美しい光。
廃墟での撮影には意図があった。私とモデルさんが仮想カップルで、親に結婚を反対されて家出。逃げ込んできたのが廃屋という設定。だから彼女は表情の指示がなくても、無感情で追い詰められた顔をしている。だが目力はある。
これから生きていく生命力がある。
写真作品や絵画にはそれが残る。そして良質な作品には必ず奇跡的なドラマや複雑な背景がある。それを想像しながら作品を見るのだ。それは映画でも文学小説でも同じ。
「なぜ、この映画監督はこのシーンを撮ったのか」「なぜこの作家はこんな小説を書いたのか。モデルはいるのか」と。
私の写真作品はほとんどが、人工の光を使わない。ストロボとかを使わないわけだ。太陽の光を至上としている堕落ものだからだ。
あなたに、芸術作品、美術作品を見る目がないなら、まず、天気のいい日に、綺麗な川がある山奥に行ってほしい。少し雲が出る日がいい。
太陽が雲の隙間から覗いた時、川面がキラキラと輝き、川の中にいる稚魚や沢蟹も見えてくる。
「わあ、綺麗な川だな」
と思うはず。そしてまた雲が出てきて、川底が見えなくなる。水面は少し黒くなる。
また太陽が出てくる。
振り返ると、木々の隙間からの射し込む太陽の光は、緑の葉も透明に光らせ、見えなかったカワセミが飛んでくる。野鳥カメラマンはその瞬間のためにシャッターを切っている。そしてその瞬間は二度と訪れない。
人物や動植物がいない芸術作品も同じく、「作者はなぜ、これを創ったのか」「どんな意味があるのか」を考えて鑑賞する。作者の感情がない作品は恐らくどこにもない。
あなたが、私の個展に展示してある写真作品を見る時に気づいてほしいことは、やはり、「里中は撮影用の人工の光は使わない」ことだと思う。太陽の光に依存し、太陽の光が出てくるまで待ち続け、その間、モデルさんとどうコミュニケーションをとっていたのか想像してほしい。
そもそも、太陽の光しか使わない事で、二度と撮れない作品が生まれるのである。
里中李生。
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男らしく生きれば成功する ~君たちは悔しくないのか~
里中李生(作家)