□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月23日発行第218号 ■ =============================================================== NATO「新戦略概念」の光と影 =============================================================== 日本の政治がまったく機能していなくても世界は待ってくれない。 どんどんと変化、進展している。 11月19日にNATO首脳が合意した「新戦略概念」もその一つだ。 冷戦真っ盛りに出来たソ連に敵対する欧米の軍事同盟である北大西洋条約 機構(NATO)。 そのNATOの首脳会議へロシアの大統領が招待され、ともに共通の敵に 対するミサイル防衛体制を構築する事で合意した。 我々はこれをどう評価すればいいのだろうか。 一般的な受け止め方はこれを歓迎するものだ。 冷戦が終わっても欧米とロシアの軍事的対立は必ずしも終わったわけでは なかった。 ソ連共産主義の支配下に置かれた東欧諸国が次々と共産主義を捨てて NATOに加盟する中で、ロシア包囲を警戒するロシアと欧米との間で あらたな軍事的な緊張を産み出していたことは事実だ。 そのロシアが全欧ミサイル防衛システムの構築に参加することによって、 欧米とロシアを含んだ集団安全保障体制に一歩近づく事が期待される。 ロシアを含んだ欧米諸国は一つの不戦地帯へと発展していく事が期待される。 11月22日の毎日新聞「FROM リスボン」のコラムにおいて、この NATO首脳会議を取材した福島良典記者は、対露融和に傾斜する欧米首脳の くつろいだ雰囲気に感動し、「西で現実のものとなりつつある平和の配当が東 に及ぶ日はいつか」、と、APEC首脳会議に見せたアジアの首脳間の緊張 関係を嘆いて見せる。 11月22日の産経新聞の社説に至っては、「価値と理念で結ばれたNATO の新たな方向は日本の国益にも合致する」と断じて、日本も参加しろと言いだす 始末だ。 しかし、今度の「新戦略概念」の合意の裏にはもう一方の厳然とした国際 政治の現実がある。 それは対イラン封じ込めである。アフガンを含む対テロ戦争に対する米ソ 協力である。 「テロとの戦い」を最優先する米国は、いまやチェチェン共和国独立派と いう「テロ」を弾圧するロシアとお互いの国家犯罪に目を瞑りあう仲になろうと している。 弱小国家や抵抗組織の権利を軍事的に抑え込もうとする有志連合の始まり である。 更に言えば、将来これに少数民族問題を抱えた中国が加わったらどうか。 露・中の軍事覇権大国が、米国、イスラエルのパレスチナ弾圧を容認する ことと引き換えに、自らの少数民族弾圧の免罪符を得る事になればどうか。 弱者は永久に救われない。 米欧・露・中ら軍事覇権大国間の平和は保たれても、それは決して世界の 平和につながる事ではない。 公正で永続的な国際平和の実現は、弱小国家や組織の権利もまた等しく尊重 され、扱われてはじめて実現できる。 それが国連憲章の精神であり、国際法なのだ。 いやしくも憲法9条を掲げる日本なら、軍事覇権国家の間の有志連合に埋没 することなく、日本の自主・平和外交を貫くべきであ。 私の主張する東アジア集団安全保障体制や東アジア非核化構想の実現は、 決して産経新聞の主張するようなNATOへの参加ではない。 ましてや日米同盟とNATO重層的協力を進める事ではない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)