□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年8月13日発行 第54号 ■ =============================================================== 日韓併合100年「首相談話」をあらためて検証する ================================================================ 最初に断っておくが、私は菅首相の今回の首相談話の内容自体は是とする 立場である。 しかしそれは基本的には村山談話を踏襲したものだ。 村山談話はあの小泉首相さえも踏襲している。村山談話では不十分なのだ。 言うまでもなく、歴史認識の最大の問題は日本のアジア侵略を日本政府が 公式に認めるかどうかである。 私は史実として日本の侵略を認める。 だから日本政府としてそれを公式に認め、この歴史認識問題について終止符を 打つべきだと考える。 それは単に日本が公式に謝罪する必要があるというだけではない。 国際政治の駆け引きに翻弄されることなく、力強い自主外交を進めていく為 にも、それが得策であると考えるからだ。 しかし今の日本では、日本の侵略を正面から認めていない村山談話ですら 批判的に受け止める国民が多い。 そして自民党はもとより民主党の政治家の中でさえ、今回の談話を批判する 政治家がいるのだ。 正しい歴史認識が国民の間に根付くには国民的議論が必要だ。時間が必要だ。 いや時間が経てば経つほど戦争を知らない世代の世の中になり、正しい歴史 認識が難しくなるかも知れない。 それほど困難で、大きな問題なのである。 だから菅・仙石民主党政権が日韓併合100年にあたる今年に新たな談話を 出すつもりであったのなら、周到な準備を重ね、政治的覚悟を持ってそれを 行なうべきだった。 ところが大手各紙が報じる舞台裏を見る限りそうではなかった。それどころか その実態はお寒い限りだ。 たとえば8月11日の産経新聞「検証 日韓併合100年」に次のようなくだり があった。 「7月21日、複数の民主党有力議員がソウルを訪れた。彼らは・・・ (大統領府)幹部らとの会談でこう尋ねた。『どのような首相談話を希望される のか』・・・」 このエピソードは韓国側から批判が出ないような首相談話ありき、という事が 見事に示されている。 つまり今回の談話は心がこもった談話ではなく、国内政局を乗り切る政局 がらみの談話であったという事だ。 産経新聞は更に次のように報じていた。 「・・・仙谷由人官房長官が、日韓併合100年にあたり首相談話を検討して いる事を明らかにしたのは7月16日の記者会見だった・・・ 突然の表明に 慌てた事務方は仙谷氏に『村山談話を超えるものは無理だ・・・』と再三説明 した・・・日韓併合100年をどう乗り切るかは昨年来、(日韓)両国政府の 懸案だった。政府レベルの行事は行なわず、静かにやり過ごす、これが当初の コンセンサスだった・・・」 歴史認識に批判的な産経新聞だからこのような記事は信用できないと言う なかれ。 同様の裏話を報じる記事は他紙にも見られる。 8月11日の朝日新聞も談話の文言をめぐっては日本国民に発表する前に 韓国側と腹の探りあいをしていたと書いていたし、8月11日の日経新聞も 次のように書いていた。 「当の(菅直人)首相は『8月5-6日に広島を訪問するまでは談話を出すか 悩んでいた・・・成果がなければ代表選にマイナスでしかない』(政府筋)と 懸念していた・・・」 日韓併合100年という節目の年に歴史認識についての日本側の態度が問われる 事がわかりきっていたのに、この付け焼刃的な対応には驚くばかりである。 今回の首相談話が、その表面的な歓迎ぶりとは裏腹に、左右両方の立場から 冷ややかに受け止められ、また韓国、中国が決して手放しで評価していないのは、 心がこもっていない事が見透かされているからである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)