□■□■ 【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年6月17日発行 第212号 ■ ───────────────────────────── シベリア特別措置法の成立に思う ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 不毛な今度の国会の最後に、戦後強制抑留者特別措置法(シベリア特措法)が可決、成立した ことはよかった。せめてもの償いだ。 元抑留者が受けた過酷な境遇を思うとき、まぜ歴代の政府は、そして官僚たちは、シベリア抑留者の 救済にここまで冷淡だったのか、と思う。 私もそうなのだが、日米の戦後史については大いなる関心を払っても、日本とソ連との戦後史に 我々はあまりにも無知、無関心である。 シベリア抑留問題がここまで放置されてきた理由の一つはここにあると思っている。 この機会に我々はシベリア抑留や北方領土問題についてもう一度原点に立ち戻って史実を知る努力が必要だ。 シベリア特措法成立のニュースを知って私が思い起こしたのが、この前もメルマガで書いたが、保阪正康氏の 最近著「昭和史の深層」(平凡社)である。 その第7章「北方4島、北海道占領をめぐるドラマ」で保阪氏はこう書いている。 昭和史の本質は、と問うとき、南では沖縄が、北では北海道がそれぞれアメリカとソ連の影響下に入り 日本国内そのものが東西冷戦のモルモットになることもありえた・・・現実はアメリカが主導権を持った ために、南の沖縄はアメリカの支配に入ったが、そのために昭和史の後期の本質は日本は軍事的にアメリカ に依存するという・・・歴史を刻む事になった・・・ そして保阪氏は日本分割をめぐるスターリンとトルーマンの駆け引きの中で、北方問題やシベリア抑留問題 が生まれたと次のように書いている。 ・・・北海道がソ連の制圧下に入らなかったこと、これはまさに僥倖だったが・・・一方において北方4島 をソ連の制圧下に置くことは、アメリカ政府も認めていたことに気づかされる。日本がロシアに北方4島の 返還を強く求める(が)アメリカが公然と(日本を)支援を表明しないのはこうした史実があるからだ・・・ ・・・スターリンは北海道制圧をあきらめるかわりに、シベリアへの日本人「捕虜」を送り込んで使役にした ・・・日本軍の兵士たちは、戦時下にあっては大本営の高級参謀に、戦後のあってはソ連の独裁者に自らの 運命を振り回されたのだ・・・ それから65年たった今、沖縄県民は米軍基地の負担を強いられたままだ。シベリア抑留者については、 長年の悲願の末にやっと20万円─150万円の補償金が認められただけである。 沖縄問題とシベリア特措法の底にある問題は同じだ。 昭和史を風化させてはいけない。 政府に国民を切り捨てさせてはいけない。 因みにこのシベリア抑留については、当時の日本の高級参謀が関与していたという疑いが今も謎として 放置されたままである。 _______ お知らせ 「さらば日米同盟」がいよいよ講談社から緊急出版されます。6月21日には全国の書店に並ぶ 予定です。 鳩山民主党政権を応援すべく、その対米外交について助言をするつもりで書きはじめた本書は、 その後のめまぐるしい鳩山外交の迷走と菅直人政権の誕生により、図らずも菅直人民主党政権の 対米従属外交への回帰をこの上なく批判する書となりました。
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)