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未来への羅針盤

吉野愛(文筆家、国際政治研究者)

吉野愛

[ 未来への羅針盤・特別号#5 ]
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こんにちは、吉野愛です。

『未来への羅針盤』は毎週木曜日定期発行ですが、第五木曜日のメルマガは原則的に配信しませんので、8月31日木曜日の通常メルマガはお休みさせていただきます。その代わりに、特別号として過去のブログ記事をシェアしたいと思います。次回の通常メルマガは9月7日発行になります。よろしくお願いします。

まだしばらくは厳しい暑さが続くようですので、体調にはくれぐれもお気をつけ下さいませ。


令和5年 晩夏



【Common Coreの悲劇】

アメリカはKindergarten(5歳)から高等学校まで義務教育です。教育システムは州によって若干違ったりします。高等教育まで義務教育ですので、卒業証書またはGEDと呼ばれる試験で卒業資格を得ることになります。

GED = General Educational Development(高等教育の課程を修了した学力を証明する5教科の試験)

高校に進学しなくともGEDの試験を受けて合格すれば、年齢は関係なく大学に進学する試験を受けることができます。19歳で大学を卒業した知人もいます。

学校通学を拒否する子供や、公立学校教育に信用を置けない親は、ホームスクールといって家庭に拠点を置いて学習するシステムを選ぶ場合もあります。特に最近では過激リベラル派による意味不明なジェンダー教育やLGBTQ思想の植え付けなど、親の許可なく子供に教育する州や地域もあり、ホームスクールや私立学校に子供を通わす親も増えています。

家庭によってホームスクールを選ぶ理由は様々ですが、昔は裕福な家庭が自分の子供に家庭教師などを付け自宅で教育することが多かったのです。また、何らかの事情で高校を中退してしまった人も大人になってからGEDを受けて、高校卒業資格を得る方もいます。

例えば刑務所の中ではGEDプログラムが盛んです。刑務官が囚人をプログラムに参加させれば政府からキックバックが入ってくるというシステムもありますが、やはり囚人は高卒の資格を持っていない人も多いためです。映画「ショーシャンクの空に」で、囚人がGEDを受けるシーンが出てきますね。ちなみに不法移民より安い労働力は刑務所にいる囚人の労働です。


Common Coreは、米国の高校卒業率の低下とPISAスコアの低さの危機感から、義務教育における各学年の2つの教科(数学と国語)の到達度を全米で統一させる目的で、オバマ政権の時に生み出されました。(一部ビル・ゲイツ財団が助成金を後援)悪くいってしまえば、全米で学力基準を統一させる数学と国語の教育ノルマです。ハッキリ言ってCommon Coreは失敗と言って良いでしょう。(ビル・ゲイツでさえも失敗だったと言っています)第一に現場で教育に関わっている人たちが構築したシステムではありません。政府の教育補助金をもらうために、ほとんどの州がシステムを導入したのでしょう。

全米統一テストでその達成度を計るため生徒は到達度目標を求められ、教師は新しいカリキュラムを組むのに四苦八苦し、結局、目標達成のためにカリキュラムのレベルが上がってしまい、生徒はテストのスコアのみで評価され、成績によって教師は勤務評定がつけられ学校のランク付けが決まってしまいます。(現在はコロナパンデミックによってレベルは下がりましたが)

生徒の家族や経済背景など様々な要素がその子の教育に影響を及ぼすというのに、学校のスタンダード・テストのスコアのみで評価されるシステム導入は、生徒のPISAスコアが以前より低くなったという皮肉な結果に終わりました。さらにテスト目標に熱心で、子供の想像力と言ったクリエイティブな部分は無視され、最近では沢山の州がCommon Coreの見直しを検討しています。

子供には外部からの情報処理に対して脳の働きが違う子たちがいます。例えば、理屈で数学を教えても分からない子はビジュアルで理解を推進させたりします。そのためには少人数のクラスで、しかもそういった教育ができる先生でないと無理です。脳の情報処理のメカニズムが違うので、理屈で説明しても理解が進まなく、結局、クラスから置いてきぼりを食らうのです。そうした子供たちをクラスから拾い上げて違う方法で教えると彼らは理解できるのです。結局、ある程度成長すればどんな脳のメカニズムだろうとバランスは取れていくものですが、私の住むニュージャージー州ではIEP(Individualized Education Program)といって特別学級の一部ですが、そういった特別な教育システムがあります。ただし、IEPのほうが、カリキュラムは普通のクラスと変わらないのに少人数クラスや先生が二人付くなど、実は普通のクラスより優遇されたシステムです。(政府の補助金でやってます)

さて、最後に21世紀の教育ルネサンス、教育改革への挑戦として是非、紹介したいのが「Open Education」です。Open Education(オープン教育)とは、学生が個人の興味に応じ独自のペースで学習を進めることを可能にした新しい教育方針です。

このアプローチは、英国で40年間に亘って開発され、1970年代にアメリカで教育革新をもたらしました。しかし多くの研究結果が、伝統的な教育方針の達成度とあまり異ならないことを示したため、アメリカではその教育革新の動きは減少しました。このOpen Educationはイスラエルで人気が高まっており、また英国の小学校では未だに主な教育アプローチであると言われています。

教育界のパイオニアであるマリア・モンテッソーリやシュタイナー学校を設立したルドルフ・シュタイナーなどは「教育というものは成長する子どもの道徳観、感情面、身体面、精神面、スピリチュアルな面を磨く芸術とみなされるべきだ」と主張しています。


日本も以前は職能分業制が発達し、経験で得られる知識という技術が、労働者として質の高さを支えていました。しかしそうした文化は戦後破壊され、政府は職業分業よりも一般教育を優先導入してきました。そもそも一般教育というのは、アメリカで社会習慣の違う移民の知識水準を統一させ、一般労働者をつくりあげて社会に排出させるための学校制度です。


『教育とはなぜか?という、すべてに対しての振り子の反発の積み重ねと発展です。それが自分を作っていくのです。それをケアしていくのが教育者です。さもないと両者は最悪の場合殺し合い同志になってしまいます。その実例が今日の我々の社会であり国であり世界です。それは家庭においても同様です。動物の世界では分別がありますが 人間はこれを失い、取り返さなければならないことも忘れました。(ブログ読者様より)』




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