1.今週のコラム「改めて考える、日本企業のグローバル化において必要なこと」
<ポイント>
日本企業のグローバル化について、改めて相談を受ける機会が増えている。海外売上5割以上を目指すのであれば、本社における海外を外国語対応できるようにすることや本社・海外現地法人を問わず、外国人社員を幹部に登用することが不可欠になってくる。グローバル本社機能を思い切って日本国外に出すことも必要だ。
2.時代を映すワンランク上の英語表現
The sweeping legislation(包括的な法律):AIについてのEUの規制法のことを形容したCNNの記事の表現だ。Sweepは掃除する、掃くという意味であるが、sweepingの形でこのような意味で使われることが多い。
My initial disappointment was spilling over into full-fledged panic.(私の当初の落胆は完全なパニックに陥った):異文化理解について書かれた世界的ベストセラー「The Culture Map」の表現である。Spill over はこぼれ落ちるという意味であるが、このように比喩的に使われる。
- 2.厳選:グローバルメディア
世界のメディアから著作権に配慮して無料公開部分を基に構成。
各項目の後の印は、
◎=今後を見る上で重要な一押し記事(毎回1-2程度選択)
- ①Politics
●【Economist:衝撃的な選挙結果がインドを良い方に変える】
インドの総選挙結果は、大方の予想と違い与党インド人民党が大きく議席を減らした。しかし、そのこと自体がインドの民主主義にとって大きな勝利であり、同国が良い方向に向かう一助になるであろう。
A triumph for Indian democracy (economist.com)
(Economist)
<山中コメント>
確かに、予想と違って与党が大きく議席を減らすことは、インドが民主主義であることの証左であろう。モディ氏の政権運営はより他党の意向を重視したものになるであろう。このうような民主主義がビルトインされているインドは将来性があるということになりうる。
●【東アジアを破壊するプーチン大統領の北朝鮮訪問】
プーチン大統領はかつて北朝鮮の非核化を目指していたが、その方針を変えて、核開発に繋がる技術を助けることにした。
Putin Once Tried to Curb North Korea’s Nuclear Program. That’s Now Over. - The New York Times (nytimes.com)
(New York Times)
<山中コメント>
核保有国が北朝鮮の核保有を本格的に支援することは、東アジアを大変に不安定化することになる。東アジアの核の脅威が新たなフェーズに入ったといえる。今後情勢を十分に見極めていくことが大事である。
- ②Business/Society
●【グリーン時代に生き残りを図るサウジアラムコ】
石油の時代が終わりを迎える中、サウジアラムコは、政府の進めるビジョンファンドへの投資、オペレーションにおける脱炭素、炭化水素開発などで、グリーンの時代における生き残りを図っている。
How Saudi Aramco plans to win the oil endgame (economist.com)
(Economist)
<山中コメント>
石油会社の方と脱炭素時代の戦略について議論する機会もこれまで多々あった。大変に厳しい状況で生き残っていくのは簡単ではない。現在ある資金で、極力脱炭素のエネルギーなどに投資をしていくことになるのであろう。サウジアラムコも同様の戦略をとっている。
●【中国の最上位の次のランクの都市の反映】
中国では、長く北京、上海、深圳、広州の4大都市が発展して、その他の都市との格差が開いていた。しかし、その次のランクになる西安、武漢といったその次のランクの都市の経済成長率が最上位4都市を上回るなど発展してきている。
Watch out Beijing, China’s second-tier cities are on the up (economist.com)
(Economist)
<山中コメント>
都市と農村との格差ではなものの、大都市間の格差は減少傾向にあるということであろう。失業率の高い中国経済は多面的に分析しないといけないが、日本でいうと、三大都市圏だけでなく、他の政令市や県庁所在地などが発展してきているという状況なのだ。
●【テイラースウィフトの欧州ツアーで経済が活性化する?】
テイラースウィフトが欧州ツアーをして、多くの観客(Swifties)を集める。ホテルや飛行機は活況であるが、経済の持続性はない。
How Taylor Swift’s Eras Tour Might Affect Europe’s Economy - The New York Times (nytimes.com)
(New York Times)
<山中コメント>
もはや世界的経済現象になったテイラースウィフトのコンサートツアー。しかし、さすがに継続的な経済発展にはつながらないのであろう。もっともエンターテインメントの経済効果については、今後もっと研究されていくことで、注目されるとよいと思う。
●【女性に不妊手術をさせない日本】
日本では、女性に不妊手術をするための要件が厳しいため、出産を望まない女性の生殖に関する権利が奪われている。
In Japan, These Women Want to Opt Out of Motherhood More Easily - The New York Times (nytimes.com)
(New York Times)
<山中コメント>
初めにこの記事を読んだ際に「中絶が認められる日本で、生殖に関する権利が認められないことが問題になるのはなぜ」と思った。しかし、不妊手術を望む場合には、子供が複数いて配偶者(事実婚を含む)の同意がある既婚女性、または、妊娠・出産が生命に危険を及ぼす持病があり避妊に確実を期す女性でなければいけないとの要件がある。この要件が非人道的であると批判されているのだ。日本ではあまり問題視されていることを、私は寡聞にして知らなかった。海外目線で考えることは大事であると改めて思いました。
●【北極や南極にカーテンを張って氷溶解を防ぐ?】
北極や南極にカーテンを張って氷溶解を防ぐ案が科学者の間で勢いを増している。しかし、そのようなカーテンでも気候変動の影響は続き効果がないといった反論もある。
Zany ideas to slow polar melting are gathering momentum (economist.com)
(Economist)
<山中コメント>
壮大な計画であると思う。莫大な資金と科学的な英知が求められる案である。Economistは疑問も呈しているが、地球を救うために大胆な案も必要な時代ではないか。
4.コラム「改めて考える、日本企業のグローバル化において必要なこと」
<ポイント>
日本企業のグローバル化について、改めて相談を受ける機会が増えている。海外売上5割以上を目指すのであれば、本社における海外を外国語対応できるようにすることや本社・海外現地法人を問わず、外国人社員を幹部に登用することが不可欠になってくる。グローバル本社機能を思い切って日本国外に出すことも必要だ。
<コラム>
「少しファシリテーターと話をしたいとのことなので、時間を頂けるでしょうか」
ある日本企業から連絡が入った。その会社のフランス現地法人幹部が、次のグローバル研修に向けて事前に話をしたいとのことだった。
フランスの現地法人からの参加者が予定されている研修ではなかった。しかし、日本の本社でグローバル研修があると聞いて、その講師と事前に話をしたいということだった。
話を聞いてみると、「日本本社の日本人とはコミュニケーションギャップが大きい。日本人は世界標準で見てみると、相当曖昧な表現をしていることをもっと知ってもらって、コミュニケーションについて学んで工夫をしてほしい」とのことだった。
異文化理解についての世界的ベストセラー「The Culture Map」(Erin Meyer著)なども持ち出して参照してほしいとことだった。
同著の日本語版は以下のとおりである。
異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養 | エリン・メイヤー, 田岡恵, 樋口武志 |本 | 通販 | Amazon
同フランス人幹部は、おそらく日本本社とのやり取りや会議で相当やりつらさを感じているのであろう。
改めて日本企業のグローバル化を考える機会になった。
筆者は多くの日本企業のグローバル化について研修やコンサルティングとして関わらせていただいた。
グローバル化を目指している企業の規模やグローバル化度合いは様々である。売上の8割は海外である企業、世界各国の社員が日本や世界で各国の会議にも頻繁に参加して活発な議論をしている企業もあり、筆者が助言をする必要がないことも多々ある。
しかし、多くの日本企業は、8割のレベルまで達していない。
そこで、本稿では、海外での売上が2割以下にとどまり、社内での議論が(現地法人での非日本人同士の会話を除き)おおむね日本人による日本語の議論にとどまっている企業を念頭に、いかにしてグローバル化を進めるかについて、多くの企業に関わってきた経験から、私見を述べさせていただきたいと思う。
第一に、どの程度までグローバル化を進めるのかについて、ビジョンや目標をタイムテーブルを含めて明確な形で立てることが大事である。
グローバル化の指標としては、
- ・海外子会社を含めた海外売上比率
- ・海外子会社を含めた外国人従業員比率
- ・本社における外国語での会議の割合
などがあげられる。
海外売上比率や外国人従業員比率については、5割を超えることを目指すのかどうかが一つの目安になると考える。
ここが、あくまで日本企業に留まるのか、日本発祥グローバル企業を目指すのかの分岐点になると思われる事例が多いからだ。
私が関わった企業にお、海外売上5割を目指している場合(以下、「5割以上企業」)には、本社でも外国人社員を積極的に採用して、研修も英語化していることが多かった。
一方で、海外売上比率や外国人従業員比率がせいぜい3-4割程度で十分であると考える場合(以下、「5割未満企業」)には、そこまでの体制をとっていないことも多い。
まずはそのビジョン・目標を明確にすることだ。
第二に、日本本社と海外現地法人の改革である。
上記とも関係して、グローバル化の度合いに応じて、日本本社と海外現地法人の組織体制の改革が不可欠である。
「5割以上企業」の場合、本社のグローバル化が不可欠である。
日本企業で、5割の壁が打ち破れない一つの大きな要因は、本社のグローバル化が遅れているからだ。
海外売上が伸びていても、
・本社幹部が海外事情に疎い
・本社幹部が外国語での議論に参加できない
・本社幹部の大半が日本人であり、日本目線のマネジメントをしている
場合には、5割の壁が破られないことが多いように感じる(もちろん例外も多々あるので一概には言えないことは付言しておく)。
また、日本本社のグローバル化が遅れると、海外現地法人のグローバル化も遅れることになる。
それは、日本本社が海外現地法人の幹部に日本人を送ろうとすることになるかだ。本社との関係を考えると日本人が幹部であることが、円滑なコミュニケーションに繋がると考えるのだ。
しかし、日本人が現地法人幹部の要職を占めることは、以下の2つの点から、海外現地法人の売上増加にはマイナスである。
一つには、現地語を含め現地情勢に疎いため現地でのマーケティングや生産などに支障が出ることである。
二つ目は、海外現地法人の現地採用社員の意欲低下である。現地採用社員にとっては、昇格について「ガラスの天井」が設けられていることを意味する。当然優秀な現地人材は入社しないか、入社しても辞めていくことになる。
筆者は、ある日本の商社の海外現地法人の人事担当者を訪問した際、「日本では有名で学生に人気のある企業でも、当地では特に知名度のない中規模企業であり、しかも幹部は日本人が大半であるので優秀な人材は来ない」との話を聞いたことがある。まさに、その通りだ。昇格の可能性が限定されている場合、優秀な人材は来なくなる。
第三に、日本本社という概念も見直すことである。
海外売上比率を上げて、真のグローバル企業になるには、そもそも日本に本社を置くメリットは大きくない。
日本に本社を置いておくと、強い日本語社会である日本では優秀な外国人人材が入ってこない。また、日本は東アジアの端に位置しており、アジアを除くと世界各国との地理的文化的距離も大きい。
地震などの災害リスクや北朝鮮や台湾海峡での緊張なども問題もある。日本人が一般的に考えるほど、日本に本社を置くメリットは少ない。
実際、JTは、グローバル本社機能をスイスに置き、世界での売り上げを伸ばしている。スイスであれば、日本目線ではない経営が可能であり、世界から多くの優秀な人材を採用できるのだ。
グローバル本社機能を思い切って、日本以外に出していくことも今後検討されてよいだろう。
日本企業のグローバル化は、まだまだ発展途上だ。今後の更なるグローバル化にかじを切る戦略が求められることだろう。
<編集後記>
サウジアラビアの聖地メッカでの大巡礼で1300人が猛暑で死亡という悲惨なニュースが報道されていました。巡礼月に実施することは、イスラム教徒に推奨されており、イスラム教徒はお金と時間があれば行きたいと思っています。猛暑と的確な宿泊所を確保できなかったことなどが理由とされています。サウジアラビア政府がもっと環境整備にお金をかけるべきでしょうね。多くのイスラム教徒の富裕層が寄付をしてくれると思います。
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山中俊之の国際教養から世界の行方を洞察する
山中俊之(著述家・芸術文化観光専門職大学教授)