Foomii(フーミー)

山中俊之の国際教養から世界の行方を洞察する

山中俊之(著述家・芸術文化観光専門職大学教授)

山中俊之

統一30年で新冷戦・環境・紛争分断…国際政治のリーダー役割が求められるドイツ
無料記事

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00150/2020101422032371953 //////////////////////////////////////////////////////////////// 山中俊之の世界の行方を洞察する https://foomii.com/00150 //////////////////////////////////////////////////////////////// 厳選:グローバル英語メディア 記事のタイトル、要約(●の後の2-5行)、<山中コメント>に分けた形で提示いたします。 各項目の後の印は、 ◎=今後を見る上で重要な一押し記事 ●=重要記事 ■=SDGs(国連の定める持続可能な開発目標)関連 を意味しています。 (1) 国際政治経済からの洞察 ●<Economistはバイデン氏勝利を前提にBidenomicsについて巻頭特集> トランプ氏は、減税や脱官僚主義を実現し、小ビジネスも伸びて、貧困層の賃金も毎年4.7%伸びた。コロナ禍がなければ再選のために必要な要件は揃っていたといえる。バイデン氏は、経済的に中道路線をとっているが、R&Dへの投資拡大策や循環型社会、教育などについてもっと野心的な経済政策をとるべき。 https://www.economist.com/leaders/2020/10/03/bidenomics-the-good-the-bad-and-the-unknown (Economist 英語版) <山中コメント> 自由主義的な経済政策を重視するEconomistがトランプ氏の経済政策を、すべてでは決してないが、一定評価していることが分かる。バイデン氏について、「46代大統領として」と呼び掛けており、すでに当選を前提として、巻頭特集を組んでいる。 ●<ドイツが世界のリーダーになる時代か> ドイツ統一30周年を迎えた。世界の分断が問題化するなか、ナチスへの反省から政治的なリーダーシップをあまりとってこなかったドイツがいよいよリーダーになる時代が到来か。もっとも、ファーウェイ問題などで融和的な姿勢をとるドイツがなすべきことは多い。 https://www.economist.com/leaders/2020/10/03/thirty-years-after-reunification-germany-is-shouldering-more-responsibility (Economist 英語版) <山中コメント> 米中の対立が激化する中、その対立を緩和できる数少ない国がドイツであろう。もっとも、ファーウェイ問題で厳しい姿勢をとるべきとの主張は私とは異なる面もある。今回のコラムも是非ともお読みください。 ●<史上最悪級の餓死も~イエメン内戦に焦点を当てるべき> イエメンでは、人口の3分の2の2000万人の人々が食糧支援を必要としており、国連の分析では数百万人が飢餓の淵にいる。内戦当事者も人道的な食糧支援のためには支援道を確保すべき。 https://www.economist.com/leaders/2020/10/03/famine-in-yemen-need-not-happen (Economist 英語版) <山中コメント> コロナ禍での停戦が4月に一旦成立したイエメンでは、その停戦が続かず内戦が続いている。2000万人が食糧援助を必要として、数百万人が飢餓の危機に瀕しているのは、第二次世界大戦後では最悪の餓死につながる恐れもある(1980年代のエチオピアでは100万人が餓死したと言われる)。 (2) ビジネス・ソーシャル・アートからの洞察 ◎●<混血が増えることで政治が大きく変わる> 英国では、白人・黒人のいずれかの血が入っている国民の比率が高まっている。統計では2%であるが、実際はその3倍入ると推測される。英国人の場合、米国と違い混血の国民は白人と結婚する比率が高いことが、その比率が加速度的に増えていく要因になる。混血の人は、人種問題について穏健な立場をとることが多く、人種問題が最大級の政治問題化している中、今後の英国政治、国際政治に影響を与えるだろう。 https://www.economist.com/britain/2020/10/03/britains-mixed-race-population-blurs-the-lines-of-identity-politics (Economist 英語版) <山中コメント> 混血が増えることは、ダイバーシティを進める上で大きな役割を果たすことは間違いないだろう。自分の体に流れている血と同じ血が流れている人種や民族に対して、差別的な言動はしないからだ。記事にもあるように人種間・民族間の結婚が増えることが、究極の融和に繋がっていくと思う。 ●■<巨大IT企業VS環境保護の戦いは今後激化> フランス南部の森林地帯にアマゾンが物流施設の建設を計画するが、地元の環境団体が強く反対している。1400人の雇用をとるのか、環境保護をとるのか、大きな論争を呼んでいる。 https://www.nytimes.com/2020/10/11/business/amazon-warehouse-france.html (Economist 英語版) <山中コメント> 大規模建設と環境保護の紛争は決して新しいものではない。しかし、巨大物流施設やデータセンターなど、今後巨大施設を世界各地で建設していく巨大IT企業と環境保護団体の紛争今後増える。 ●<独占状態のアフリカで儲ける独占企業> アフリカでは、消費財が独占的な市場であることが多い。そのため、消費者は高い値段を払わされている。 https://www.economist.com/middle-east-and-africa/2020/10/03/how-big-firms-rip-off-african-consumers (Economist 英語版) <山中コメント> アフリカを歩いていると、物価が高いことに驚くことが多い。庶民的な店で、日本であればどう考えても1000円以下であるような食事が1500円程度であることもある。国民は低所得に加えて、物価高のため苦しい生活を強いられている。政府は独占禁止法など競争政策を実施すべきだ。 ●<コロナ禍でも世界は住宅バブル> リーマンショック時は10%も下がった住宅価格。しかし、今回のコロナ禍では、先進国を中心に住宅価格が上がっている。金融・財政政策と買い手の住宅重視志向が背景にある。 https://www.economist.com/finance-and-economics/2020/09/30/why-despite-the-coronavirus-pandemic-house-prices-continue-to-rise (Economist 英語版) <山中コメント> 空き家問題が深刻な日本では想像できないが、世界の先進国では住宅はある意味バブルなのだ。金融・財政政策の影響は大きい。そもそも、コロナ禍で途絶えているとはいえ、経年的には移民の存在が住宅需要を押し上げている。 ●<インドの農村部がさらに悲惨な状況に> インドは厳しいロックダウンで、特に農村部は壊滅的な状況(devastated)である。米国の死亡者数を抜いて1位になる日も近い。 https://www.nytimes.com/2020/10/08/world/asia/india-covid-19-rural.html <山中コメント> インドについては、実際の感染者数は公表されているよりもはるかに多いとの報道もある。農村部は特に壊滅的であり、今後の治安悪化、暴動、教育崩壊、電気・水道などのインフラ悪化が懸念される。 2. Column「統一30年で新冷戦・環境・紛争分断…国際政治のリーダー役割が求められるドイツ」 <ポイント> 東西ドイツが統一されて30年が経過した。長きにわたりナチスの反省を肝に銘じて、抑制的に行動をしてきたが、米中新冷戦、環境問題、紛争、人種民族の分断が深刻化する中、ドイツが国際社会でリーダーとして果たす役割は大きい。 <コラム> 2020年10月は東西ドイツが統一されて30周年の節目の月である。 30年というと一世代である。若い人は、西ドイツ、東ドイツという時代をもはや歴史としてしか知らないのだ。 ドイツが統一される時に大きな支障の一つが、周辺の欧州諸国の反対であった。 当時の英国のサッチャー首相、フランスのミッテラン大統領の二人とも東西ドイツの統一には反対であったと言われる。 その理由は、ドイツが強大化することが、第二次大戦時のヒトラー時代を思い起こさせるからだ。 30年前の政治指導者は第二次世界大戦を実体験している世代だ。ヒトラー・ドイツの恐ろしさが頭をよぎったことは想像に難くない。 ミッテラン大統領は、サッチャー首相に対して、「統一ドイツはヒトラー以上の力をもつかもしれない」と語ったと言われる。 ttps://www.afpbb.com/articles/-/2659810 (AFP 日本語版) ドイツへの恐怖感は、現在の日本人の感覚からは想像を絶するものといってよい。 周辺国が統一に反対であることは、当然ドイツも理解していた。 当時のドイツのコール首相がとったのが、周辺国との良好な関係構築であり、当時のヨーロッパ共同体(EC)におけるドイツの貢献と欧州全体の協調の拡大であった。 「ドイツのための欧州」ではなく「欧州のためのドイツ」路線を強力に推し進めたのだ。 1993年には、ヨーロッパ連合(EU)が発足して、1999年には統一通貨ユーロが誕生した。いずれもドイツが強力に推進した。経済力・財政力に劣る国に対しての支援も怠らなかった。 これらは、ナチスドイツへの反省と贖罪である。 欧州以外の国際政治や安全保障では、米国中心の西側諸国の一員として紛争解決には貢献してきている。 しかし、軍事面での貢献は抑制的である。1991年に米国などの多国籍軍がイラクを攻撃した湾岸戦争においても、ドイツは人的な参加はしていない。 当時、私は外務省で中東を担当する部署に勤務しており、当時のことは今もよく覚えている。ドイツは第二次世界大戦での反省を踏まえ、海外派兵には慎重なドイツの外交方針は鮮明な印象を与えた。 その後、ボスニアやアフガニスタン、近年はシリアなど海外派兵も行う場合もあるが、謙抑的であることは大きく変わらないといえる。 安全保障に限らず政治面でも、EUを前面に立てて、ドイツが単独で世界で動くことは少ない。 「欧州のためのドイツ」ありきなのである。 しかし、この2010年代に入ると状況が変わってきている。 第一に、米国の世界における政治・経済面での影響力が衰退する中での米中新冷戦の仲介や米国を支援する役割である。 米国の世界の紛争への関与は、オバマ政権の時から減少してきている。世界の紛争に関与することが、大きな負担になっていると判断しているのだ。 米国はGAFAなど世界の巨大IT企業の多くが拠点を置く経済大国であることは間違いない。しかし、経済面でもいずれは人口が多い中国にGDPを抜かれることは間違いない。 その中で米中の貿易や投資、IT企業への規制などでの対立が激化してきた。新冷戦である。 政治・経済の両面で米国一強から米中の新冷戦で不安定さが増している。 このような中で比較的中国とも経済面で良好な関係にあるドイツが仲介的な役割や米国を支援して西側を守る役割を求められることが増えるだろう。 第二に、環境問題への対応である。 ドイツは、環境問題を旗印とした緑の党が伝統的に議席を占めるなど環境問題への意識が高い国である。環境や社会問題、ガバナンスに配慮したESG投資にも積極的である。 環境問題において、ドイツが世界のリーダーとして旗を照らすことで、大きく動いていくのではないか。 第三に、紛争や分断を緩和する役割だ。 難民受け入れ数では、ドイツは、トルコ、パキスタン、ウガンダ、スーダンについで世界第5位である。上位4か国が紛争周辺国であることを考慮すると、ドイツの受け入れ数が突出している。 第二次世界大戦から75年が経過して、その間に積み上げたドイツへの信頼がドイツの強大化に対する懸念を減少させている。 75年というと二世代以上であり、贖罪の時期は終わりつつあるといえる。 冷戦緩和や環境破壊、紛争・分断…。ドイツの国際社会におけるリーダーシップが求められる時代が到来したのだ。 <編集後記> New York Timesの1面に竹内結子さんの大きな着物の写真が掲載されていました。完璧であろうとする中でプレッシャーに負けるとの日本社会の特質についての解説がありました。日本社会で相談もできず追い詰められていく現象についての比較的大きな記事でした。もっと、脱線を認めて、相談ができる、寄り添える社会になってほしいと改めて思います。 https://www.nytimes.com/2020/10/05/world/asia/japan-suicide-celebrities.html (New York Times 英語版) //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら   info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ //////////////////////////////////////////////////////////////// 著者:山中俊之(国際公共政策博士/元外交官) ウェブサイト: http://www.yamanakatoshiyuki.com/ Facebook: https://www.facebook.com/toshiyukiyamanaka ////////////////////////////////////////////////////////////////

今月発行済みのマガジン

ここ半年のバックナンバー

2024年のバックナンバー

2023年のバックナンバー

2022年のバックナンバー

2021年のバックナンバー

2020年のバックナンバー

2019年のバックナンバー

このマガジンを読んでいる人はこんな本をチェックしています

月途中からのご利用について

月途中からサービス利用を開始された場合も、その月に配信されたウェブマガジンのすべての記事を読むことができます。2024年4月19日に利用を開始した場合、2024年4月1日~19日に配信されたウェブマガジンが届きます。

お支払方法

クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、ドコモケータイ払い、auかんたん決済をご利用いただけます。

クレジットカードでの購読の場合、次のカードブランドが利用できます。

VISA Master JCB AMEX

銀行振込では、振込先(弊社口座)は次の銀行になります。

銀行振込での購読の場合、振込先(弊社口座)は以下の銀行になります。

ゆうちょ銀行 楽天銀行

解約について

クレジットカード決済によるご利用の場合、解約申請をされるまで、継続してサービスをご利用いただくことができます。ご利用は月単位となり、解約申請をした月の末日にて解約となります。解約申請は、マイページからお申し込みください。

銀行振込、コンビニ決済等の前払いによるご利用の場合、お申し込みいただいた利用期間の最終日をもって解約となります。利用期間を延長することにより、継続してサービスを利用することができます。

購読する