━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 山田順の「週刊:未来地図」 No.028 2013/03/19 「業績がいいから株価は上がる」はウソ! 安倍バブル株価上昇の本当の理由 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 安倍バブルによる株価上昇が続いています。メディアには「アベノミクス銘柄」が登場し、個人投資家も株式市場に戻ってきました。 しかし、現在、株価は企業の業績、パフォーマンスなどの指標で上がるわけではありません。投資家にとって、そんな指標はどうでもよく、気にするのは「横」だけです。なぜなのでしょうか? [目次]────────────────────────────────── ■リーマンショック後の最高値にサラリーマンも浮かれる ■有料銘柄探しは無駄、株価は企業業績とは比例も反比例もしない ■「業績いいのに株価が下がるなんておかしい」と理由を探す ■売り手(=供給量)より買い手(=需要量)が多いから上がる ■では、いったい誰が日本の株を買っているのか? ■シャドーバンキングが世界の金融市場を動かしている ■株式市場に流れ込む大量のドル、ユーロ、そして円 ■世界全体でどれくらいのマネーが動いているのか? ■投資家の行動は「横を見る」ことに尽きる ■シャドーバンキングが67兆ドルに拡大、監督強化へ ────────────────────────────────────── ■リーマンショック後の最高値にサラリーマンも浮かれる 株価の上昇が続いている。3月になってからは連日高騰し、とうとうリーマンショック後の最高値を更新して、日経平均は1万2000円台になってしまった。そんななか、春闘で自動車業界が軒並み「満額回答」を出したので、週末、東京の盛り場は久しぶりに深夜まで飲み歩くサラリーマンであふれた。 この週末、私はマスコミ関係の知人と新宿、六本木にいたが、どこの店も満員。最初にいった居酒屋では、IT業界の若手社員グループが、宴会後一本締めをするのに出くわした。それとなく、彼らの話を聞いていたら、「〇〇株で儲けた」「FXで儲けた」というフレーズが飛び交っていた。 アベノミクスで日本が本当に再生してくれるのなら、こんないいことはない。しかし、どう考えてもまだまだ実体経済は株価に追いついてきていない。つまり、期待バブルだ。株価は上がったが、それは、期待だけで上がっているにすぎない。それなのに、株式評論家やメディアは、「アベノミクス銘柄」を選んで、さかんにバブルをあおっている。 そして、私が本当に不思議に思うのが、これらの評論家やメディアが、いまだに「株価は企業業績と関連する」というような、古色蒼然たる理屈を述べることである。 ■有料銘柄探しは無駄、株価は企業業績とは比例も反比例もしない 「株価は業績と連動する、だから業績のよい企業(銘柄)の株価は上がる」というのが、彼らの理屈だ。それで、アベノミクスで今後、業績が上がるとされる企業の株が推奨される。大型の公共投資が始まるから建設業、円安効果で輸出企業というのが定番で、個別銘柄探しがヒートアップしている。 しかし、21世紀に入ってからの金融市場は、この理屈が当てはまらなくなっている。つまり、いくら業績がよくても株価は下がり、いくら業績が悪くても株価は上がる、ということが際限なく起こっているのだ。株価は企業業績とは、比例も反比例もしないのである。 株式評論家も、株の本も、「優良株を探せ」と言う。優良株とは、将来性のある会社、業績がいい会社である。こういう会社を見つけ出し、その株を買う。これが株式投資の基本だと言う。 それでは、なぜ、いまのアベノミクス相場で、新日鉄住金のような鉄鋼株、パイオニア、NECのうのような電機株が上がっているのだろうか? 巨大赤字を計上し、業績回復の兆しさえ見えないパナソニックまでが上がるのだろうか? たとえば、鉄鋼株にいたっては業績が上向く気配はない。なぜなら、円安は原材料の輸入価格を上昇させるので、輸出価格の上昇を招き、鉄鋼の国際競争力を落としてしまう。また、サービス産業や電力、食品などの内需型産業は輸出産業ではないので、円安で営業利益は大きく悪化する。円安で業績が上向くとされる輸出産業の代表、自動車産業とはまったく違うのだ。 それなのに、軒並み株価が上がるのだから、株式評論家やメディアの言うことは、完全に的が外れている。 ■「業績いいのに株価が下がるなんておかしい」と理由を探す かつてバブル崩壊前までの日本では、株価と地価は右肩上がりに上がるものだった。しかし、バブル崩壊後は、株価と地価は右肩下がりに下がるものになった。だから、日本では、いまだに、「業績のいい会社の株を買え」が生き続けている。 ところがいま、株価はなんで動いているかというと、世界中にあふれた投機マネーを動かす人々のマインドで動いているのだ。企業業績など、ほぼ関係ないと言っても過言ではない。 日本でもアメリカでも欧州でも、これは同じだ。21世紀になってから、いや1990年代の後半から、世界の金融のあり方は変わってしまったからである。 この事実を知らないで株投資をすると、たとえば、こんな悲劇が起こる。 ある優良株を買う。当然、企業業績は抜群。しかし、なぜか株価は下がる。そこで「業績がいいのに株価が下がるなんておかしい。そのうち上がるはずだ。もっと持っていよう」となり、ロスカットができないで、多額の含み損を抱えてしまう。 こういうとき、人は、なぜか?と自問自答し、その理由を探す。そうすると、理由はいろいろ見つかる。 確かに業績はいいが、買った時点で株価ピークだった。将来の業績悪化を見越して株価は下げている。なにか自分は知らない大きな悪材料が隠れている、などなどだ。 しかし、その理由はみな的外れだ。… … …(記事全文6,664文字)