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増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

ミーム株は世界を救えるか 後篇

  1. ● ゴリラにもわかるアメリカ金融業界の五悪

 

未だに「アメリカの金融システムは他国を圧倒していて、特に信用創造という無から有を生み出す力は中国やロシアにはとても真似ができない」といった見解をお持ちの方もいらっしゃいます。

残念ながら、約80年前の第二次世界大戦が終わった直後なら通用していたかもしれませんが、今ではまったく時代遅れになった見方です。

無から有を産み出す信用創造などはどこの国でもやろうと思えばやれるけれども、節度のない国ではやりすぎてハイパーインフレか悪性デフレに終わるが、ある程度の節度を持った国ならやりすぎないところで止めておくことができるというだけの話です。

現在ただ今のアメリカ金融業界の「強み」は、そんなところにはありません。アメリカは政府も税収よりはるかに巨額の支出をして万年財政赤字を垂れ流しているだけではなく、国民も輸出総額よりはるかに大きな輸入をして、収入より豊かな生活をし、毎年巨額の経常赤字も出しつづけている国です。

自国が海外諸国から投融資してもらっている莫大なカネの配当・金利支払い分より大きな金額の配当・金利収入を借りているカネのほんの一部を運用するだけでひねり出すというのは、話がうますぎてすぐボロが出るはずの仕組みです。

この仕組みを、恥も外聞もなくありとあらゆる汚い手を使って維持しながら、いかにも正当な経済活動であるかのように粉飾する技術、これだけはアメリカの金融業界が超一流というだけのことなのです。

Xなどで投稿しているハンドルネームThe AMC Ape Cage@jaxs2828さんは、自分は人間よりずっと知的能力の低い類人猿で脳みそものっぺりと皺もなかったのに、最近アメリカ金融業界の仕組みがわかってくるにつれて、脳みそにも皺ができ始めたと書いています。

謙遜というよりは、おそらく韜晦(自分の素性を覆い隠すレトリック)なのでしょう。

彼の業界分析は、絶対に将来を嘱望された投資銀行のエリートだったけれども、あまりにもやり口が汚すぎたので、業界をおん出てその悪業の数々を暴露することを生きがいにしている人を想起させるツボを心得た語り口です。

その「AMC類人猿の檻」さんをガイドに、アメリカ金融業界五悪を一とおり見聞していくことにしましょう。金地金とその預かり証が織りなすとんでもなく無責任な市場、シカゴ・マーカンタイル取引所とロンドン貴金属取引市場協会から出発します。

 

 

いかがでしょうか。金地金1トロイオンス当たりで250枚も同じ地金を根拠資産とする預かり証を発行しておいて、突然現物引き取り請求が重なってしまうことなど考えてもいないという「マーケット」なのです。

「わが行のことばは、金同様に重い。我々があると言えば、ほんとうにそれだけの金地金は存在しているのだ。査察したいなどと無礼なことを言うな」と主張していたイングランド銀行が、ついに今まで公表していた金地金の量とはほど遠い金地金しか保管していないことを白状しました。

この事態を招いたきっかけは、アメリカの銀行業界で資金繰りがそうとう切迫しているところが増えて、今までイングランド銀行に預けっぱなしにしていた数行がいっせいに金地金の現物引き出しを請求したことだったようです。

それにしても先代の覇権国家だったイギリスという国の閉鎖性には驚きますが、この貴金属市場ではアメリカはまだイギリスのジュニアパートナーで、今回のイングランド銀行に対する揺さぶりにも、イギリスに残された世界金融市場で最後の牙城、金価格決定権も奪い取ろうという狙いがあったのかもしれません。

ここからがアメリカ金融業界固有の諸問題です。その筆頭が円キャリーであることにご注目ください。

 

 

いまだに円キャリーの巻き戻しで日本経済が壊滅的な打撃を受けるといった主張をする方が多いようですが、安く借りた円で相場を張っていて、最大の被害を受けるのは円が高くなってから返さなければならなくなる、外国人投資家や投機屋なのです。

… … …(記事全文12,334文字)
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