日本は、憲法第9条の規定により軍事力の保有に大きな制限が設けられ、さらにその行使の態様についても同じく制約があります。とはいえ、現在日本は世界でも有数の規模と実力を有する自衛隊を保有し、有事には自衛隊による武力の行使も認められています。これは、日本政府が憲法上武力の行使が認められるとの解釈を示しているためです。
まず、憲法第9条の規定を見てみましょう。
「・日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
・前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
じつは、日本政府の憲法解釈によると、憲法上武力の行使が許される根拠は、この第9条の規定から直接導かれるわけではないのです。では、日本政府は一体どのような解釈に基づいて武力の行使が許されるとしているのでしょうか。
「憲法第9条はその文言からすると、国際関係における『武力の行使』を一切禁じているように見えるが、憲法前文で確認している『国民の平和的生存権』や憲法第13条が『生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利』は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法第9条が、我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されず、一方、この自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限度の『武力の行使』は許容される」(令和4年6月24日「衆議院議員足立康史君提出憲法第9条の解釈に関する質問に対する答弁書」)
この答弁書の内容を整理してみましょう。日本政府としては、一見すると武力の行使を一切禁じているように見える憲法第9条の規定であっても、憲法前文には平和の内に生きる権利である「平和的生存権」、第13条には国民が個人として幸福を追求する権利である「幸福追求権」が規定されていることを踏まえると、他国による攻撃によって国民の生命や自由、そして幸福追求権が根底から覆されてしまうような場合には、これを守るために必要最小限度の武力行使が許容される(=自衛のための措置がとれる)、と考えているわけです。つまり、「前文+13条の合わせ技」でもって第9条の制約を回避しているといえます。
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稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)